つむとシャトルと針
グリム童話
むかし、あるところに、両親をなくしたけれど、とても働き者で心優しい女の子がいました。女の子は糸を紡いだり、布を織ったり、縫い物をしたりするのがとっても上手でした。
ある日、女の子が森で木の実を拾っていると、親切な魔法使いのおばあさんに出会いました。おばあさんは女の子の働きぶりを見て感心し、「これをお前にあげよう」と言って、小さな紡錘(つむぎ:糸を紡ぐ道具)と、梭(ひ:布を織る道具)、そして一本の縫い針をくれました。「これらはただの道具じゃないよ。願いを込めて使うと、きっと素晴らしいことが起こるだろう」
女の子は家に帰り、おばあさんの言葉を思い出しました。「王子様みたいな素敵な人と結婚できたらいいなあ」と、淡い夢を抱いていました。
そこでまず、紡錘に向かって言いました。「紡錘さん、紡錘さん、くるくる回って、私の素敵な旦那様になる人を連れてきておくれ!」
するとどうでしょう。紡錘はカタカタと軽快な音を立てて回りだし、金色の糸をキラキラと出しながら、窓からヒューンと飛んでいきました。金色の糸はずーっと遠くまで、まるで道しるべのように続いています。
女の子は次に梭に言いました。「梭さん、梭さん、カタコト織って、旦那様が歩くための素敵なじゅうたんを作っておくれ!」
梭はすぐに機織り機の上でカタコト、カタコトと楽しそうに動きだし、あっという間に、見たこともないほど美しい模様のじゅうたんを織り上げました。そのじゅうたんは、玄関から部屋の中まで、まるで虹の橋のように敷かれました。
最後に女の子は縫い針に言いました。「針さん、針さん、チクチク縫って、お部屋をきれいに飾り付けておくれ!」
縫い針はまるで小さな妖精のように宙を舞い、カーテンやテーブルクロス、クッションなどを、あっという間に刺繍やフリルで飾り付けました。部屋はまるでお城の一室のように、明るく華やかになりました。
ちょうどその時、家の外から馬のひづめの音が聞こえてきました。金色の糸をたどって、立派な王子様がやってきたのです。王子様は、地面に続く金色の糸に導かれ、女の子の家の前に立ちました。そして、玄関から続く美しいじゅうたんを踏み、きれいに飾られた部屋に入って、そこでちょっぴり驚いた顔で立っている女の子を見ました。
王子様は、こんなに素晴らしい準備ができる女の子なら、きっと心も美しいに違いないと思いました。「こんなに素敵な部屋とじゅうたんを用意してくれたのは君かい?そして、この金色の糸も?」
女の子は顔を赤くしながら、小さくうなずきました。
王子様はにっこり笑って言いました。「私は君のような賢くて働き者の女性を探していたんだ。どうか私のお嫁さんになってくれませんか?」
女の子は夢のようで、嬉しくてたまりません。「はい!」と元気よく返事をしました。
こうして、女の子は王子様と結婚し、紡錘と梭と縫い針のおかげで、いつまでもいつまでも幸せに暮らしましたとさ。
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