• 冥界の女王ヘル

    北欧神話
    みんな、北の寒い国に伝わる、ちょっと不思議なお話を知ってるかな?

    いたずら好きの神様ロキにはね、ちょっぴり変わった三人の子どもがいたんだ。
    一人は、ものすごーく大きなオオカミのフェンリル。
    もう一人は、海をぐるっと一周しちゃうくらい長い蛇のヨルムンガンド。
    そして三人目が、今日のお話の主人公、ヘルっていう女の子。

    ヘルはね、体の半分はとっても美しくて、もう半分はちょっとこわい、まるで影みたいな姿をしていたんだ。
    神様たちの王様オーディンは、この三人の子どもたちが大きくなったら大変なことになるんじゃないかって、心配で心配でたまらなかった。
    だから、三人を遠いところへ送ることにしたんだ。

    ヘルは、「ニヴルヘイム」っていう、暗くて静かな「冥界(めいかい)」、つまり死んだ人たちの国へ送られて、そこの女王様になったんだ。
    戦いで勇敢に死んだ英雄たちは別の場所へ行くんだけど、病気や年をとって静かに亡くなった人たちは、ヘルのところへやってくるんだ。
    ヘルはちょっぴり見た目はこわいけど、自分の国をちゃんと治める、しっかり者の女王様だったんだよ。

    さて、神様たちの中に、バルドルっていう、光みたいに明るくて、みんなから愛される優しい神様がいたんだ。
    でもある日、悲しいことに、バルドルはロキのいたずらが原因で死んでしまって、ヘルの国へ行くことになっちゃった。
    神様たちはみんな、悲しくて悲しくて、涙が止まらなかった。

    オーディンの息子で、勇敢なヘルモードが、「僕がヘル女王にお願いして、バルドルを返してもらってくる!」って、馬に乗って冥界へ出発したんだ。
    長い長い暗い道を通って、やっとヘルの宮殿に着いたよ。
    ヘルモードはヘル女王に、「どうかバルドルを生き返らせてください。みんな彼がいなくて悲しんでいます」ってお願いしたんだ。

    ヘルは静かに言った。「もし、世界中の生きとし生けるもの全てが、バルドルのために涙を流すなら、彼を返しましょう。でも、たった一人でも泣かない者がいたら、バルドルはここに残ります」

    神様たちは大急ぎで世界中に知らせて、みんなバルドルのために泣いたんだ。動物も、木も、石ころだって涙を流したって言われているよ。
    でもね、たった一人だけ、泣かない人がいたんだ。
    それは、年取った女の人に変装した、いたずら好きのロキだった。
    「私はバルドルのために涙なんか流さないよ」って、プイッてしちゃった。

    だから、残念ながらバルドルは生き返ることができなくて、ヘルの国に残ることになったんだ。
    ヘルはその後も、静かに自分の国を治め続けたんだって。
    ちょっとこわい見た目かもしれないけど、冥界の女王ヘルも、北欧神話の大切な一人なんだね。

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