ウサギとハリネズミ
グリム童話
ある晴れた朝のことです。野原で、ぴょんぴょんと元気なウサギが、短い足でとことこ歩いているハリネズミくんに出会いました。
「おやおや、ハリネズミくん、そんなちょこまかした足で、どこへお出かけだい?」ウサギは自慢の長い足をぴんと伸ばして言いました。
ハリネズミくんは、むっとしましたが、にっこり笑って言いました。「おはよう、ウサギさん。これから畑まで散歩だよ。きみこそ、そんなに急いでどこへ行くんだい?」
「ふん、ぼくの足は速いからね!どこへだってひとっ飛びさ!」ウサギは得意げに胸を張りました。「きみみたいな短い足じゃ、競争にもならないだろうなあ。」
それを聞いて、ハリネズミくんは言いました。「それなら、競争しようじゃないか!この畑の畝(うね)の端から端まで、どっちが速いか!」
ウサギはびっくりして、それから大笑いしました。「ははは!きみがぼくと競争だって?面白いことを言うなあ!いいだろう、受けて立つよ!」
ハリネズミくんは、「じゃあ、ちょっと準備してくるから、ここで待っていておくれ」と言うと、急いで家に帰りました。そして、奥さんに言いました。「もしもし、おまえさん。ちょっと手伝ってほしいんだ。ウサギと競争することになったんだが、おまえさんは畑のあっちの端っこに隠れていて、ウサギが着いたら『もう着いたよ!』って言ってくれないか。」
ハリネズミくんの奥さんは、旦那さんとそっくりだったので、にっこり頷きました。「わかったわ、あなた。」
さて、競争が始まりました。「よーい、どん!」
ウサギは風のようにぴゅーっと走り出しました。あっという間に、向こうの端が見えてきます。
一方、ハリネズミくんは、数歩だけ走ると、さっと畝の間に隠れました。
ウサギが息を切らして畑の端に着くと、そこにはハリネズミくん(実は奥さん)がすました顔で立っていて言いました。「やあ、ウサギさん、ぼくはもうとっくに着いてたよ!」
ウサギは目をぱちくり。「ええっ!?そんなはずは!きみ、いつの間に?」信じられません。「もう一回だ!今度こそ負けないぞ!」
「いいとも」とハリネズミくん(実は奥さん)は言いました。
そして、ウサギはまた一生懸命走りました。でも、着いてみると、またハリネズミくん(今度は本物の、スタート地点に戻っていたハリネズミくん)が言います。「やあ、ウサギさん、遅かったねえ。ぼくはもうずっと前に着いてたよ!」
ウサギは「おかしいぞ!もう一回!もう一回!」と何度も何度も競争を繰り返しました。そのたびに、ウサギがゴールに着くと、そこには必ずハリネズミくん(か、その奥さん)が先に着いていました。
とうとうウサギは、へとへとになって、地面にばったりと倒れてしまいました。「もう…だめだ…走れない…」
ハリネズミくんはにっこり笑って言いました。「見たかい、ウサギさん。足が速いだけが取り柄じゃないんだよ。頭を使うことも大事なんだ。」
それからというもの、ウサギはハリネズミくんの短い足を馬鹿にしなくなったそうです。
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