凧
アンデルセン童話
空高く舞い上がるのが得意な、ちょっといばりんぼうの凧がいました。凧は風に乗って、ぐーんと空へ昇ると、下に見えるお家や木が、まるでおもちゃみたいに小さく見えるのが自慢でした。「ぼくは空の王様さ!みんな、ぼくを見上げているだろう!」いつもそう思っていました。
ある日、凧が気持ちよく空を飛んでいると、地面でくるくる回っている小さな独楽を見つけました。
「やあ、ちびすけ。そんなところで回ってばかりで、退屈じゃないのかい?空の上は最高だよ。君にはわからないだろうけどね!」凧は得意げに言いました。
独楽はくるくる回りながら答えました。「ううん、ぼくはこれで楽しいんだ。自分の世界を旅しているみたいでね。君も空の旅、楽しそうだね。」
「ふん、空からの眺めにはかなわないね!」凧はぷいっとそっぽを向いて、また空高く舞い上がりました。
そんなある日、強い風がびゅーっと吹いて、凧の糸がぷつん!と切れてしまいました。
「わーっ!」凧はくるくる落ちて、ごみ箱の中にぽちゃんと落ちてしまいました。羽は折れ、自慢の尻尾も汚れてしまいました。もう空を飛ぶことはできません。
「ああ、ぼくはもうおしまいだ…」凧がしょんぼりしていると、ごみ箱の隅っこに、見覚えのあるものが転がっていました。
「あれ?君はもしかして…独楽くん?」
そうです、あの独楽も古くなって、ごみ箱に捨てられていたのです。
凧はなんだか恥ずかしくなりました。「ごめんよ、前はえらそうなこと言っちゃって。空から落ちてみたら、君の気持ちが少しわかった気がするんだ。」
独楽はにっこり。「いいんだよ。ここも、静かで悪くない場所さ。君の話、聞かせてくれるかい?空の上のこと。」
「うん!」凧は嬉しくなりました。
空を飛べなくなった凧と、回れなくなった独楽。二人はごみ箱の中で、静かにお互いの話をするようになりました。高い空も、地面の上も、それぞれに素敵なことがあるんだね、と。そして、どんな場所にいても、お友達がいれば寂しくないんだってことも、二人は知ったのでした。
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