貧乏人と金持ち
グリム童話
あるところに、とても貧しいけれど心優しい男の人が住んでいました。そのすぐお隣には、お金持ちだけれど、ちょっぴり意地悪な男の人も住んでいました。
ある風の強い晩のことです。一人の旅人が、宿を求めて歩いていました。実はこの旅人、神様が姿を変えたものだったのです。
まず、旅人は金持ちの家のドアをトントンと叩きました。「すみません、一晩泊めていただけませんか?」
金持ちはドアを少しだけ開けて、旅人のみすぼらしい姿を見ると、顔をしかめました。「うちはホテルじゃないんだ。他をあたってくれ!」ピシャリとドアを閉めてしまいました。
旅人はしょんぼりしながら、隣の貧しい男の家へ行きました。
「すみません、一晩泊めていただけませんか?」
貧しい男は、旅人を暖かく迎え入れました。「どうぞどうぞ!こんなあばら家でよければ、ゆっくりしていってください。」
男は、自分が食べる分しかなかったパンとスープを旅人に分け、自分の唯一のわらのベッドを旅人に譲って、自分は冷たい床で眠りました。
次の朝、旅人が出発しようとするとき、貧しい男に言いました。
「あなたの優しい心に感謝します。実はわたしは神です。お礼に、あなたの願いを三つかなえてあげましょう。」
貧しい男はびっくりしましたが、よく考えてから言いました。
「一つ目は、私が天国へ行けますように。二つ目は、私が死ぬまでずっと健康でいられますように。そして三つ目は、この古いリュックサックに『入れ!』と願ったものは、何でも吸い込んでしまう魔法のリュックサックになりますように。」
神様はにっこりして、「よろしい。あなたの願いはすべてかなえられましたよ」と言って、すーっと姿を消しました。
さて、この話を聞きつけた隣の金持ちは、悔しくてたまりません。
「ちぇっ、わしも神様にお願いすればよかった!」
金持ちは、神様がまた通るかもしれないと、毎日家の前で見張っていました。
すると数日後、またあの旅人が通りかかったのです。金持ちは急いで駆け寄り、にこにこしながら言いました。
「旅のお方、どうぞわたしの立派な家にお泊りください!美味しいご馳走も用意いたします!」
神様は金持ちの魂胆を見抜いていましたが、言いました。「よろしい。お前にも三つの願いをかなえてやろう。何が望みだ?」
金持ちは欲張りなので、何を願おうか迷ってしまいました。ちょうどその時、お気に入りの馬が庭で暴れて、植木鉢を割ってしまいました。
カッとなった金持ちは思わず叫びました。「この馬め、地獄にでも落ちてしまえ!」
すると、あら不思議。馬はその場でズブズブと地面に沈んで消えてしまいました。
「あわわ!しまった!」金持ちは青くなりましたが、もう取り返しがつきません。
次に何を願おうか考えていると、奥さんが「あなた、夕食の用意ができましたよ!」と呼びに来ました。金持ちはイライラしていたので、「うるさい!お前も地獄へ行け!」と叫んでしまいました。
すると、奥さんもズブズブと地面に消えてしまいました。
金持ちは真っ青です。二つも願いを無駄にしてしまいました。
「ああ、どうしよう…そうだ!」金持ちはひらめきました。「わしが一人で寂しくないように、あの貧乏人が持っている魔法のリュックサックが欲しい!」
しかし、神様は首を振りました。「それはもう貧しい男のものだ。お前の願いはあと一つだ。」
金持ちはがっくりして、とうとう三つ目の願いを口にしました。「もう何もいらん!わしは一人でいたいんじゃ!」
神様はため息をつき、「わかった」と言って消えました。金持ちは広い家にたった一人、寂しく暮らすことになりました。
一方、貧しい男は魔法のリュックサックのおかげで、悪いことをする泥棒や、人々を困らせる山賊を見つけると、「リュックサックに入れ!」と言って、みんな捕まえてしまいました。
そして、とうとう寿命が来て、天国の門まで行きました。
門番の天使が「お前はまだ早い」と入れてくれません。
そこで男は言いました。「よし、じゃあこのリュックサックを天国の中に投げ入れてもいいかい?」
天使は「それくらいなら」と許しました。
男はリュックサックを天国の中にポーンと投げ入れると、すかさず叫びました。
「リュックサックの中に、俺も入れ!」
すると、男の体はすーっとリュックサックの中に吸い込まれ、リュックサックと一緒に天国の中へ入ることができました。
こうして、心優しい男は天国でいつまでも幸せに暮らしましたとさ。
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