乙女と獅子
グリム童話
むかしむかし…じゃなくて、そう遠くない昔のお話。森のそばの小さな村に、リリーという名前の、とっても心優しい女の子が住んでいました。リリーは動物たちが大好きで、小鳥とおしゃべりしたり、リスに木の実を分けてあげたりするのが日課でした。
ある晴れた日、リリーが森の中を散歩していると、どこからか「うーん、うーん」と苦しそうなうめき声が聞こえてきました。「あら、誰か困っているのかしら?」リリーは声のする方へ、そっと近づいてみました。
すると、大きな木の陰で、一頭の立派なライオンが前足を気にしながら、しくしく泣いているではありませんか!リリーはびっくりして、一瞬体が固まってしまいましたが、ライオンの悲しそうな顔を見ていると、かわいそうになってきました。
「どうしたの、ライオンさん?どこか痛いの?」
勇気を出して声をかけると、ライオンはリリーの方を向いて、大きな前足を差し出しました。よく見ると、その足の裏には、太くて長いトゲがぐっさり刺さっていたのです。
「まあ、大変!痛かったでしょう。私が抜いてあげるわね。」
リリーはそう言うと、そっとライオンの足に近づき、深呼吸をしてから、トゲをえいっと引き抜きました。
「がおー!」ライオンは一瞬大きな声を出しましたが、それは痛いからではなく、ホッとした声のようでした。そして、リリーの手に自分の大きな頭をすりすりとこすりつけて、まるで「ありがとう」と言っているかのようでした。それから、元気になったライオンは森の奥へと帰っていきました。
何日か過ぎたある日のこと。リリーは森で木の実を拾うのに夢中になりすぎて、帰り道がわからなくなってしまいました。太陽も沈みかけて、森の中はだんだん暗くなってきます。「どうしよう…おうちに帰れない…」リリーが不安で泣きそうになっていると、茂みの中からガサガサと音がしました。
(もしかして、怖い動物かしら…)リリーがドキドキしていると、現れたのは、なんとあの時のライオンでした!
ライオンはリリーの顔を優しくペロッと舐めると、「こっちだよ」と言うようにリリーの前をゆっくりと歩き始めました。リリーがその後をついていくと、あっという間に見慣れた森の出口に着いたのです。
「ライオンさん、ありがとう!助けてくれて!」
リリーが言うと、ライオンは嬉しそうに小さく一声鳴いて、また森の中へ姿を消しました。
リリーは、親切はいつか必ず自分に返ってくるんだな、と心から思いました。そして、ライオンさんとは、言葉は通じなくても、ずっと友達でいられるような気がしたのでした。
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