狐とガチョウ
グリム童話
あるところに、緑がきれいな牧場がありました。太陽がぽかぽかと照らす、気持ちのいいお昼のことです。
そこに、一匹のずる賢いキツネが、お腹をすかせてやってきました。「ふむ、どこかにおいしいものはいないかなあ」キツネは鼻をクンクンさせながら歩いていると、まるまると太ったガチョウの群れを見つけました。
「しめしめ、これはごちそうだ!」キツネは舌なめずりをしました。「さあ、一羽ずつ、順番に食べてやるぞ」とキツネは言いました。
ガチョウたちはびっくり仰天!「ガーガー!ガーガー!」と大騒ぎです。食べられてしまうなんて、たまりません。
すると、一羽の賢いガチョウが前に出て言いました。「キツネさん、キツネさん。私たちを食べるのは仕方がないけれど、最後にお祈りをさせてくれませんか?みんなで声を合わせて、神様にお願いしたいのです。」
キツネは少し考えましたが、「まあ、いいだろう。お祈りくらいなら。ただし、短くしろよ」と許してあげました。キツネは、お祈りが終わったらすぐに食べようと、よだれをたらしそうになるのを我慢していました。
「では、始めます!」ガチョウたちはみんなで声を合わせました。
そして、一斉に鳴き始めたのです。
「ガー!ガー!グァー!グァー!グァー!」
それはそれは大きな、大きな声でした。一羽でもうるさいガチョウが、何羽も集まって、ありったけの声で鳴いたのですから、牧場中に響き渡りました。
キツネは「なんだなんだ、うるさいなあ。早く終わらないかな」と耳をふさぎました。
その大きな鳴き声は、遠くにいた農場の人にまで聞こえました。
「おや?ガチョウたちが騒がしいぞ。何かあったのかな?」
農場の人は、いつもと違うガチョウたちの鳴き声に気づき、急いで牧場へ向かいました。
そして、ガチョウたちを狙っているキツネを見つけました!
「こらー!悪いキツネめ!」
農場の人は大きな声で叫びながら、棒を振り上げて追いかけてきました。
キツネはびっくり!「うわー、見つかった!」と、一目散に逃げていきました。お腹はぺこぺこのままでしたが、捕まるよりはましです。
こうして、賢いガチョウたちは、みんなで大声で鳴いたおかげで、キツネに食べられずにすみましたとさ。よかった、よかった。
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