• ペテン師とその師匠

    グリム童話
    みんなは大きくなったら、何になりたいかな?パン屋さん、お医者さん、それとも冒険家?今日お話しするのは、ある男の子が「名人」になりたいと思ったお話だよ。

    あるところに、ヤンという男の子がお父さんと暮らしていました。ヤンは言いました。「お父さん、僕、何かすごいことができる名人になりたいんだ!」お父さんは困りました。「うーん、うちは貧乏だからなあ。でも、お前がそう言うなら、名人を探してみよう。」

    お父さんはヤンを連れて、森の奥に住んでいるという賢い師匠のところへ行きました。その師匠は、実は世にも名高い大泥棒だったのですが、お父さんはそんなこととは知りません。「この子に、何か一つ、立派な技を教えてやってください。」師匠はニヤリと笑って言いました。「ようござんす。一年後には、見違えるようにしてご返しますよ。」

    ヤンは師匠のもとで、いろんなことを学びました。それは、こっそり物を取ってくる技、つまり泥棒の技だったのです。でもヤンは、それが悪いことだとはあまり考えず、ただただ師匠の教える面白い技に夢中になりました。

    一年後、ヤンは家に帰ってきました。すっかり賢そうな顔つきです。お父さんは喜びましたが、師匠がこっそり言いました。「お宅の息子さんは、すごいですよ。何でも手に入れられるようになりましたからねえ。」お父さんは、ちょっと心配になりました。

    師匠はヤンの腕試しをすることにしました。
    「よし、ヤン。お前の腕前を見せてもらおうか。今夜、お父さんの夕食の焼き肉を、気づかれずに取ってこい。」
    ヤンは「はい!」と元気よく返事しました。夜、お父さんが暖炉でお肉を焼いていると、どこからか子犬の鳴き声が。「クーン、クーン。」お父さんが「おや?」と外を見に行っている隙に、ヤンはさっとお肉を盗んでしまいました。お父さんはお肉がなくなったことに気づきましたが、ヤンがやったとは思いもしません。

    次に師匠は言いました。「今度は、お父さんとお母さんが寝ているベッドのシーツを取ってこい。もちろん、起こしちゃだめだぞ。」
    真夜中、ヤンはそーっと寝室へ。はしごを使って、お父さんの足元から少しずつシーツを引き抜きました。そして、お母さんの側からも、そーっと。まるで猫みたいに静かに、シーツを手に入れました。朝、お父さんとお母さんはシーツがなくてびっくり!

    「やるじゃないか」師匠は感心しました。「次はもっと難しいぞ。村の牧師さんの馬を、馬小屋から盗んでこい。見張りがいるからな。」
    ヤンは、夜中にこっそり馬小屋へ。見張りの人に、眠くなる飲み物を少し飲ませて、ぐっすり眠らせました。そして、馬のひづめに布を巻いて、音を立てずに静かに馬を連れ出しました。牧師さんは朝になって馬がいなくて大騒ぎ。

    とうとう最後の挑戦です。師匠は言いました。「わしを袋に入れて、教会の鐘つき堂から吊るしてこい。もしできたら、お前は真の名人だ!」
    ヤンは考えました。そして、夜、師匠の家へ。「師匠、大変です!村の金持ちの旦那様が、あなたを袋に入れて連れてこいって。すごい宝物をくれるそうですよ!」師匠は欲張りだったので、喜んで袋に入りました。ヤンは師匠を袋に入れたまま教会へ運び、鐘つき堂から吊るしました。
    朝になって、師匠は自分がヤンに一杯食わされたことに気づきましたが、もう遅いのでした。「まいった、まいった!お前はわしより上手な名人だ!」

    ヤンは、見事、すべての挑戦をやり遂げました。お父さんは、ヤンの賢さには驚きましたが、「もう悪いことや、人を困らせることはしちゃだめだよ」と固く約束させました。ヤンはその賢さを、これからは人を助けるために使おうと心に誓いました。そして、村の人気者になったということです。めでたし、めでたし。

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