小さな百姓
グリム童話
ある村に、頭はいいけれど、ちょっぴり貧乏な農夫がいました。農夫には牛がいませんでしたが、奥さんはとても賢い人でした。「ねえ、あなた。木の枠で子牛を作って、牛の皮をかぶせましょうよ。本物みたいに見えるわよ」
二人はさっそく、子牛そっくりの人形を作りました。農夫はその木の子牛を市場へ連れて行きました。途中、子牛が「逃げ出した」ように見せかけて、こっそり森の中に隠しました。
農夫はがっかりしたふりをして歩いていると、カラスが一羽、キラリと光るものを持って飛んでいるのを見つけました。それはなんと金貨でした!農夫は喜び、近くの宿屋へ行くと、一番おいしい料理をたくさん注文しました。
宿屋の主人が「どこでそんなお金を手に入れたんだい?」と不思議そうに聞くと、農夫はカラスを指さし、「このカラスがね、未来を教えてくれる魔法のカラスなんだ。だからお金持ちになれるのさ」と、さも本当らしく言いました。
欲張りな主人は、その「魔法のカラス」を大金で買い取りました。農夫は大喜びで家に帰り、奥さんに金貨を見せました。
村の人たちは、農夫がカラスで大金持ちになったと聞いて、みんな魔法のカラスが欲しくなりました。そこで農夫は、普通のカラスをたくさん捕まえてきて、「これは未来がわかるカラスだよ」と言って、村人たちに高く売りました。
もちろん、ただのカラスですから、何も予言しません。怒った村人たちは農夫を捕まえ、「嘘つきめ!」と樽に入れて川に流してしまうことにしました。
農夫が樽の中で困っていると、ちょうど羊飼いがたくさんの羊を連れて通りかかりました。農夫は樽の中から大声で叫びました。「いやだー!僕は村長になんてなりたくないよー!」
羊飼いはそれを聞いて、「えっ?その樽に入ると村長になれるのかい?」と興味津々。農夫は「ああ、そうらしいけど、僕は嫌なんだ。君が代わりに入ってくれないか?」と頼みました。羊飼いは喜んで農夫と入れ替わり、樽の中へ。農夫は羊飼いの羊を全部もらって、村へ帰りました。
村人たちは、農夫がたくさんの羊を連れて帰ってきたのでびっくり仰天。「どうやって助かったんだい?それに、その羊はどうしたんだ?」と聞きました。
農夫はにっこり笑って言いました。「川の底にね、もっとたくさんの羊がいるんだよ。僕が入った樽が川の底に着いたら、そこは羊がたくさんいる素敵な牧場だったのさ。だから、この羊たちを連れて帰ってきたんだ」
それを聞いた欲張りな村人たちは、「よし、私たちも!」と、我先にと川へ飛び込みました。でも、川の底には羊なんて一匹もいません。結局、村人たちはみんな川の底へ。
こうして、賢い農夫は村一番のお金持ちになり、奥さんと幸せに暮らしましたとさ。
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