• 蜜蜂の女王

    グリム童話
    むかしむかし、とあるお城に、三人の王子さまがくらしていました。上の二人の王子さまは、いつも「冒険にでかけよう!」と元気いっぱいでしたが、ちょっとだけ自分勝手なところがありました。末っ子の王子さまは、みんなから「ぼんやりちゃん」なんて呼ばれることもありましたが、実はとっても心優しい男の子でした。

    ある日、上の二人の王子さまは、とうとうお城を飛び出して冒険の旅に出かけました。末っ子の王子さまも、心配になって後から追いかけました。

    森を歩いていると、大きなアリの巣がありました。上の王子たちは「よし、このアリの巣を踏みつぶして、アリたちが慌てふためくのを見てやろう!」と言い出しました。
    でも、末っ子の王子さまは「だめだよ!アリさんたちだって一生懸命生きているんだ。いじめちゃかわいそうだよ」と言って、アリたちを助けました。

    次に、湖のほとりに着くと、カモたちが気持ちよさそうに泳いでいました。上の王子たちは「あのカモを捕まえて、丸焼きにして食べようぜ!」と相談し始めました。
    末っ子の王子さまは、また言いました。「かわいそうだよ。あんなに楽しそうに泳いでいるのに。そっとしておいてあげようよ。」

    さらに進むと、大きな木にミツバチの巣がありました。蜜がたっぷりありそうです。上の王子たちは「木の根元で火をたいて、煙でミツバチを追い出して、蜜を全部取ってしまおう!」と悪い顔をしました。
    末っ子の王子さまは、慌てて止めました。「そんなことしたら、ミツバチさんたちが焼け死んじゃうよ!それに、巣がなくなったら困るだろうな。やめてあげて。」

    こうして三人は、夕方ごろ、静かで不思議なお城にたどり着きました。お城の中には誰もおらず、馬小屋には石の馬がいるだけ。たくさんの部屋を通り抜け、一番奥の部屋のテーブルに、おいしそうなごちそうが並べられていましたが、手を付けようとすると消えてしまいます。

    そこへ、小さな灰色の服を着たおじいさんが現れて言いました。
    「このお城は魔法にかかっている。もし三つの難しい願いをかなえることができれば、魔法はとけるだろう。もし失敗すれば、お前たちは石になってしまうぞ。」

    最初の願いはこうでした。「お姫さまの千個の真珠が、森の苔の間に散らばってしまった。日暮れまでに全部見つけ出すのじゃ。一つでも足りなければ石になる。」
    上の王子たちは森へ行きましたが、百個も見つけられないうちに疲れて寝てしまいました。末っ子の王子さまは、どうしようかと途方に暮れていました。
    すると、以前助けたアリたちが、王様アリを先頭にぞろぞろとやってきて、あっという間に千個の真珠を苔の間から集めてきてくれたのです!

    二番目の願いは、「お姫さまの寝室の鍵を、湖の底から拾ってくること」。
    上の王子たちが湖に着くと、どうやって鍵を見つけようかと悩んでいるうちに、またもや居眠り。末っ子の王子さまが困っていると、以前助けたカモたちがやってきて、水の中に潜り、ピカピカの鍵をくわえて持ってきてくれました。

    三番目の願いが一番難題でした。
    「眠っている三人の美しいお姫さまの中から、一番年下で一番優しいお姫さまを選び出すこと。三人はそっくりだが、眠る前に食べたものが違う。長女は砂糖をひとかけら、次女はシロップを少し、そして末の姫は蜂蜜をスプーン一杯食べたのじゃ。」
    末っ子の王子さまは、どのお姫さまが一番年下で優しいかなんて、見ただけではわかりません。
    そのとき、以前助けたミツバチの女王バチが飛んできました。女王バチは、三人の眠っているお姫さまの口元を順番に確かめ、蜂蜜を食べたお姫さまの唇にちょこんととまりました。
    「このお姫さまだ!」
    末っ子の王子さまがそう言うと、お城の魔法がとけ、みんな目を覚ましました。

    末っ子の王子さまは、一番年下で優しいお姫さまと結婚し、王様になりました。そして、助けてくれたアリとカモとミツバチに、いつも感謝の気持ちを忘れませんでした。上の二人の王子さまも、それぞれ別のお姫さまと結婚して、みんな幸せに暮らしたということです。

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