• 水車小屋

    アンデルセン童話
    静かな森の奥、古い水車小屋がカタコトと音をたてていました。そこには、働き者の粉ひきのおじいさんと、その奥さんが住んでいましたが、最近は水車がうまく回らず、粉もあまりひけなくて、ちょっぴり困っていました。おじいさんには、もうすぐ赤ちゃんが生まれる奥さんがいたので、なおさらです。

    ある晩、おじいさんが水車のそばでため息をついていると、水車の下の大きな池から、にゅーっと水の精が現れました。「もし、粉ひきさん。わしがおまえさんを大金持ちにしてやろう。そのかわり、おまえさんの家で『新しく生まれたもの』をわしにくれんかのう?」

    おじいさんは、(きっと、もうすぐ生まれる子犬か子猫のことだろう)と軽く考え、「いいですよ!どうぞどうぞ!」と約束してしまいました。

    それからというもの、水車は元気よく回りだし、粉はどんどんひけて、おじいさんの家はみるみる豊かになりました。そして、奥さんが元気な男の赤ちゃんを産んだのです!おじいさんは真っ青。「しまった!水の精との約束は、この子のことだったのか!」

    おじいさんは息子がかわいくてたまりません。池にだけは絶対に近づけまいと、いつも息子から目を離しませんでした。

    男の子はすくすくと育ち、やがて立派な若者になりました。そして、隣村の美しい娘さんと恋に落ち、結婚することになりました。結婚式の少し前、若者が一人で池のほとりを散歩していると、突然、水の中から大きな手が伸びてきて、あっという間に池の中へ引きずり込まれてしまいました。水の精が約束のものをとりに来たのです。

    若者の奥さんになったばかりの娘さんは、悲しくて悲しくて、毎日池のほとりで泣いていました。するとある日、白髪の優しいおばあさんが現れて言いました。「かわいそうに。これを使いなさい。」そう言って、金の櫛(くし)、金の笛、そして金の糸車をくれました。

    次の日、娘さんは池のほとりで金の櫛で髪をとかしました。すると、水面から若者の頭がぷかっと浮かんできましたが、すぐに沈んでしまいました。
    その次の日、娘さんは金の笛を吹きました。すると、若者の胸までが水面から現れましたが、またすぐに沈んでしまいました。
    三日目、娘さんは金の糸車をくるくる回しました。すると、若者が水の中から完全に姿を現したのです!娘さんは大喜びで若者の手を取りました。

    しかし、水の精はカンカンに怒って、大きな波を起こしました。ザブーン!という音と共に、若者と娘さんは波にのまれ、遠い遠い場所に流されてしまいました。しかも、二人は離れ離れになってしまったのです。

    若者は見知らぬ国で羊飼いとして、娘さんもまた別の場所で羊飼いとして、何年も何年も暮らしました。
    ある春の日、若者が寂しさを紛らわすために笛を吹いていると、その音色を聞きつけた娘さんが、「あら、この笛の音…どこかで聞いたことがあるわ…」と、音のする方へ近づいていきました。
    そして、ついに二人は再会できたのです!「あなた!」「おお、おまえか!」二人は抱き合って喜びました。

    手を取り合って、二人は懐かしい水車小屋へと帰りました。水車は昔と変わらずカタコトと回り、二人を優しく迎えてくれました。そして、粉ひきのおじいさんとおばあさんも、息子夫婦の帰りを涙を流して喜んだのです。
    それからみんなで、水車小屋でいつまでも幸せに暮らしましたとさ。

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