高い高い山のてっぺん、そこは一年中、氷と雪がきらきらしている世界。そこに、氷の女王、アイス・メイデンが住んでいました。彼女は冷たくて美しいけれど、ちょっぴり寂しがりやさんでした。

さて、ふもとの村には、ルディという元気な男の子がいました。ルディがまだ赤ちゃんのとき、お母さんと一緒に山を散歩していると、大変！お母さんが足を滑らせて、深い氷の割れ目に落ちそうになってしまったのです。そのとき、アイス・メイデンがふわっと現れて、ルディの小さな額に、ひんやりとしたキスをしました。「この子はわたしのものよ」とでも言うように。でも、一緒にいた賢い猫がニャーニャーと助けを呼び、村の人たちが駆けつけて、ルディとお母さんはなんとか助け出されました。お母さんはその後すぐに亡くなってしまいましたが、ルディは猫のおかげで生き延びたのです。

ルディは大きくなり、山を誰よりも愛する、勇敢で優しい若者になりました。狩りも上手で、高い山に登るのも得意。みんなに「山の息子ルディ」と呼ばれていました。

ある日、ルディは粉屋の娘、バベットに出会います。バベットは太陽みたいに明るくて、とっても可愛らしい女の子。二人はすぐに夢中になり、お互いが大好きになりました。「結婚しよう！」と約束しました。

でも、山の上のアイス・メイデンは、ルディのことをずっと見ていました。「ルディはわたしのものなのに。あの人間の女の子なんかに渡さないわ」と、冷たい氷の心臓がチクチクと痛みました。

結婚式の前の日、ルディとバベットは、湖に浮かぶ小さな島へピクニックに出かけました。そこは緑がいっぱいで、お花も咲いていて、とても素敵な場所でした。
バベットは、岸辺の切り立った崖に咲いている、珍しくてきれいなエーデルワイスの花を見つけました。「まあ、なんて素敵なお花！ルディ、あのお花、ほしいわ」とバベットが言いました。
「もちろんさ、バベット。きみのために取ってくるよ！」ルディは自信満々に答えました。

ルディはするすると崖を登り始めました。バベットは下からハラハラしながら見守っています。ルディが花に手を伸ばそうとした、そのとき！
突然、目の前にアイス・メイデンが現れました。彼女はルディに優しく微笑みかけ、「ルディ、やっと二人きりになれたわね。あなたはわたしのものよ」と囁くと、もう一度、ルディに冷たーいキスをしました。
その瞬間、ルディはまるで氷になったみたいに体が動かなくなり、バランスを崩して、深い深い湖の底へと落ちていってしまいました。

「ルディ！」バベットは叫びましたが、もうルディの姿は見えません。湖の水面が静かに揺れるだけでした。
ルディは、アイス・メイデンと一緒に、キラキラ光る氷のお城へ行ってしまったのです。
バベットは悲しくて悲しくて、毎日泣いて暮らしました。でも、ルディのことは決して忘れませんでした。

そして、高い高い山のどこかで、ルディはアイス・メイデンと、ちょっぴり寂しいけれど、静かに暮らしているのかもしれませんね。お空の星がきらめく夜には、もしかしたら二人の楽しそうな声が風に乗って聞こえてくるかもしれませんよ。

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