十二人の踊るお姫様
グリム童話
ある国に、ちょっぴり困った顔の王様がいました。王様には、それはそれは美しい十二人のお姫様がいたのですが、毎朝、お姫様たちの部屋をのぞくと、なんと靴がボロボロになっているのです。「いったい、夜の間にどこで踊り明かしているのやら…」王様はため息をつきました。
王様は国中にこんなおふれを出しました。「三日三晩、お姫様たちの秘密を見破った者には、好きなお姫様と結婚させ、いずれは王の座をゆずろう。ただし、失敗したら…まあ、がっかりして帰ってもらうだけだがね。」
たくさんの王子様たちが挑戦しましたが、みんな失敗。お姫様たちは夜になると、こっそり王子様たちに眠くなる飲み物を飲ませてしまうのです。王子様たちは、あっという間にぐっすり。朝には「何もわかりませんでした」と頭をかくばかりでした。
そんなある日、一人の貧しいけれど、心優しい兵隊さんがお城にやってきました。兵隊さんが森を歩いていると、一人のおばあさんに出会いました。「もし、お姫様たちの秘密を解き明かしたいのなら、これをあげよう」とおばあさんは、古びたマントを差し出しました。「これは姿が見えなくなる魔法のマントじゃ。それから、お姫様たちがくれる飲み物は、絶対に飲んではいけないよ。飲むふりをするだけでいいんじゃ。」
兵隊さんはお礼を言ってマントを受け取り、お城へ向かいました。その夜、一番年上のお姫様が、兵隊さんに甘い飲み物を差し出しました。兵隊さんはおばあさんの言葉を思い出し、飲むふりをして、こっそりベッドの下にこぼしました。そして、大きないびきをかいて眠ったふりをしました。
お姫様たちは、兵隊さんが眠ったのを確認すると、ウキウキした様子で綺麗なドレスに着替え始めました。一番年上のお姫様が床を三回たたくと、なんと床がパカッと開いて、秘密の階段が現れたのです。兵隊さんはさっと魔法のマントをかぶり、お姫様たちの後を追いました。
階段を降りていくと、キラキラ光る銀の葉っぱの森、次にピカピカ光る金の葉っぱの森、最後にまばゆいダイヤモンドの葉っぱの森を通りました。兵隊さんは、それぞれの森でこっそり小枝を一本ずつ折って、証拠としてポケットに入れました。一番下のお姫様は、枝が折れる音を聞いて「まあ、誰かいるのかしら?」と不安そうにしましたが、他のお姫様たちは「気のせいよ」と笑いました。
森を抜けると、大きな湖があり、そこには十二艘の小さなボートと、ハンサムな十二人の王子様たちが待っていました。お姫様たちは一人ずつボートに乗り、湖の向こう岸にある、それはそれは立派なお城へ向かいました。兵隊さんも、一番下のお姫様のボートにそっと乗り込みました。お姫様は「なんだかボートが重いわ」と首をかしげましたが、王子様は「風のせいでしょう」と答えました。
お城では、楽しい音楽が鳴り響き、お姫様たちは王子様たちと朝まで踊り続けました。兵隊さんは、誰にも見えないのをいいことに、こっそりお姫様のワインを一口飲んだりしました。
そんなことが三晩続きました。三日目の夜、兵隊さんは踊りの途中で、金の杯を一つこっそり持ち帰りました。
次の朝、王様の前に出た兵隊さんは言いました。「王様、お姫様たちの秘密がわかりました。」そして、銀の枝、金の枝、ダイヤモンドの枝、そして金の杯を王様に見せました。お姫様たちは顔を見合わせ、真っ赤になりました。もう隠し通せないと観念し、すべてを白状しました。
王様は、長年の謎が解けて大喜び。「約束通り、好きなお姫様を選びなさい。」兵隊さんは、一番年上のお姫様を選びました。二人は盛大な結婚式を挙げ、兵隊さんはやがて立派な王様になりました。そして、みんな幸せに暮らしましたとさ。
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