賢い農家の娘
グリム童話
あるところに、お父さんと、とっても賢い娘さんが一緒に暮らしていました。お父さんは貧乏でしたが、娘さんはいつも明るく、知恵がありました。
ある日、お父さんが畑を耕していると、キラリと光るものを見つけました。なんと、それは金の臼(うす)だったのです!お父さんは大喜びで、「これを王様に差し上げよう!きっと褒美がもらえるぞ!」と言いました。
すると娘さんは言いました。「お父さん、それだけを王様に持っていくのはだめよ。きっと王様は『この臼に合う杵(きね)はどうした?』って怒るわ。臼だけでは不完全だもの。」
でも、お父さんは聞き入れず、金の臼を持って王様のもとへ行きました。
王様は金の臼を見て喜びましたが、すぐに娘さんの言った通り、「素晴らしい臼だ。だが、これに合う金の杵はどこにあるのだ?」と尋ねました。お父さんが「臼しかありません」と答えると、王様はカンカンに怒って、「杵も持ってこないとは何事だ!牢屋に入れてしまえ!」とお父さんを牢屋に入れてしまいました。
牢屋で「ああ、娘の言うことを聞いておけばよかった…」と嘆いているお父さんの言葉が、王様の耳に入りました。王様は「ほう、そんなに賢い娘がいるのか」と興味を持ち、娘を呼ぶことにしました。
王様は娘にこう言いました。「もしお前が本当に賢いなら、私の出すなぞなぞを解いてみよ。『服を着てもいけないし、裸でもいけない。馬に乗ってもいけないし、歩いてもいけない。道の上でもいけないし、道の外でもいけない。そんなふうにして私の前に現れなさい』」
娘さんはにっこりして、「お安いご用ですわ」と言いました。
次の日、娘さんは大きな魚をとる網(あみ)を体に巻きつけました。これなら服でも裸でもありません。そして、ロバを借りてきて、片足だけロバの背中に乗せ、もう片方の足は地面につけて、ロバを引っぱりました。これなら馬に乗ってもいないし、歩いてもいません。そして、ロバの片足は道の上、もう片足は道の外を歩くようにして、王様の前に現れました。
王様は娘さんの賢さにすっかり感心し、「素晴らしい!ぜひ私のお妃(きさき)になってほしい」と言いました。
娘さんは「ありがとうございます。でも、一つだけお願いがあります。もしもいつか、私がお城を出ていくことになったら、一番大切なものを一つだけ持っていくことを許してください」と言いました。
王様は「もちろんだとも!」と約束しました。
二人は結婚し、しばらくは幸せに暮らしました。しかしある日、王様はちょっとしたことでカッとなり、娘さんに言いました。「もうお城から出ていきなさい!約束通り、一番大切なものを一つだけ持っていくがよい。」
娘さんは悲しい顔をしましたが、心の中ではにっこり。「わかりました。では、最後の晩餐にしましょう」と言って、王様の飲み物にこっそり眠り薬を入れました。王様がぐっすり眠ってしまうと、娘さんは王様を大きな布にくるんで、用意していた馬車に乗せ、お父さんの小さな家へと連れて帰りました。
次の朝、王様が目を覚ますと、そこは見慣れない小さな家。「ここはどこだ?なぜ私はここに?」とびっくり。
すると娘さんが言いました。「王様、あなたは私に、一番大切なものを持っていっていいと言いました。私にとって一番大切なものは、あなたですわ。」
王様はそれを聞いて、またまたびっくり!そして、娘さんの深い愛情と賢さに、前よりもっと感動しました。「君こそ、本当に賢くて素晴らしいお妃だ!」
王様は娘さんの手をとり、二人でお城へ帰りました。それからはもっともっと仲良く、いつまでも幸せに暮らしましたとさ。
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