カラス
グリム童話
ある国に、それはそれは美しいけれど、ちょっぴり言うことを聞かないお姫様がいました。お母さんの女王様は、毎日「もう!カラスにでもなって、どこかへ飛んでいっちゃいなさい!」なんて、つい怒って言ってしまうのでした。
すると、あら不思議。お姫様は本当に真っ黒なカラスになって、バサバサと空へ飛んでいってしまったのです。女王様はびっくりして、とても悲しみました。
カラスになったお姫様は、暗い森の奥へと飛んでいきました。しばらくして、一人の若い男が森を歩いていると、どこからか悲しそうな声が聞こえました。「助けて、助けて。私は呪いをかけられたお姫様なの。」
見ると、木の枝に一羽のカラスがとまっています。男は驚いて尋ねました。「どうすれば君を助けられるんだい?」
「森のはずれに、小さなおばあさんの家があるわ。そこへ行ってちょうだい。でも、気をつけて。おばあさんが出す食べ物も飲み物も、絶対に口にしてはだめよ。もし口にしたら、深い眠りに落ちてしまうから。庭で私を待っていて。三日間、お願いね。」カラスはそう言いました。
男は勇気を出して、おばあさんの家へ向かいました。おばあさんは親切そうに男を迎え入れ、おいしそうな食事と飲み物をすすめました。男はカラスの言葉を思い出しましたが、あまりにお腹がすいていたので、ついパンをひとかじり、ミルクを一口飲んでしまいました。すると、たちまち眠くなり、庭のベンチでぐっすり眠ってしまいました。カラスがやってきましたが、男は起きません。
次の日も、男はまた少しだけ食べてしまい、眠ってしまいました。カラスは悲しそうに男のそばを飛び回りました。
三日目の夕方、カラスがやってくると、男はやはり眠っていました。カラスはため息をつき、男のそばに小さな金の指輪と、いつまでも食べ物がなくならないパン、そしてお金がいくらでも出てくるお財布を置きました。そして、一枚の手紙も。「あなたは私を助けることができなかったわ。でも、もし本当に私を助けたいなら、ストロンベルグの金の城へ来て。私はそこへ行くわ。」
男が目を覚ますと、カラスの姿はなく、贈り物と手紙が残されていました。男は自分のしたことを深く後悔し、「よし、今度こそお姫様を助けるぞ!」と決心しました。魔法のパンをかじって元気を取り戻し、金の城を目指して旅に出ました。
道中、男は大きな大きな山ガラスの山に出会いました。ツルツル滑って、どうしても登ることができません。困っていると、三人の男たちが言い争っているのが見えました。
「この空飛ぶマントは俺のものだ!」
「いや、一歩でどこへでも行ける魔法の靴こそ最高だ!」
「何を言うか、このどんなものでも斬れる剣が一番に決まってる!」
男はかしこい考えを思いつき、彼らに言いました。「そんなに争うなら、私が試して、どれが一番素晴らしいか見てあげよう。」
男はマントを羽織り、靴を履き、剣を手にすると、「ありがとう、助かったよ!」と言って、あっという間に空を飛び、ガラスの山を越えていきました。三人の男たちはあっけにとられて見送るばかりでした。
ついに男はストロンベルグの金の城にたどり着きました。城の中では、まさにカラスだったお姫様が、別の王子と結婚式を挙げようとしているところでした。男はそっと広間に入り、隅のテーブルにつきました。そして、カラスからもらった魔法のパンを取り出して食べ始めました。
お姫様はそれを見て、「あら、そのパンは…?」と近づいてきました。男が指にはめていた金の指輪を見せると、お姫様はハッとしました。「あなただったのね!私を助けに来てくれたのね!」
お姫様は、男こそが自分を救おうとしてくれた本当の人だとみんなに話し、結婚の相手は男に変わりました。二人は盛大な結婚式を挙げ、いつまでもいつまでも幸せに暮らしたということです。
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