金の山の王様
グリム童話
むかし、あるところに、船をたくさん持っていた商人がいました。でもある日、大きな嵐で船も荷物もぜーんぶ海の底。すっかり貧乏になってしまいました。
「ああ、どうしよう…」とぼとぼ森を歩いていると、小さな黒いおじいさん、いえ、こびとがひょっこり現れました。
「もしもし、商人さん。わしがお金をあげよう。そのかわり、12年後に、あんたの家で最初に出迎えてくれたものをわしにくれんかの?」
商人は「きっとうちの犬だろう」と思い、「いいですよ!」と約束しました。
家に帰ると、大喜びで飛び出してきたのは、なんと一番可愛い息子でした! 商人は真っ青。でも、約束は約束です。
息子は賢くて優しい子に育ちました。12年後、息子は事情を知ると、「お父さん、心配しないで。僕、行ってみるよ」と勇ましく言いました。
こびとは息子を小さな舟に乗せました。舟はひとりでに動き出し、やがて見知らぬ岸辺に着きました。
そこには大きなヘビがとぐろを巻いていました。でも、息子が近づくと、ヘビは美しいお姫様に変わったのです!
「助けてくれてありがとう! 私は呪いでヘビにされていたの。あなたは金の山の王様の娘である私を救ったのよ。でも、本当の自由のためには、あと3日間、試練を乗り越えなければならないの。毎晩、12人の真っ黒な男たちがやってきて、あなたをいじめ抜くわ。でも、決して声を出したり、動いたりしてはダメよ」
息子は頷きました。最初の夜、男たちは息子を叩いたりつねったり。二番目の夜も、もっとひどいことを。三番目の夜は、もう息もできないくらい苦しめられましたが、息子はじっと耐えました。
夜が明けると、お姫様は息子を抱きしめました。「ありがとう! これで私は自由よ!」
お姫様は指輪を息子に渡し、「この指輪があれば、欲しいものは何でも手に入るわ。さあ、私のお父様、金の山の王様のところへ行きましょう」と言いました。
息子が「立派な馬よ、来たれ!」と願うと、たちまち素晴らしい馬が現れました。二人は馬に乗り、あっという間に金の山のお城に着きました。
王様は娘が無事に戻ったことを大喜びし、勇敢な息子をたいそう気に入りました。やがて二人は結婚し、幸せに暮らしました。
ある日、息子は故郷のお父さんのことが心配になりました。お姫様は「行ってもいいけれど、この指輪の力で、私やお城をあなたの故郷に呼び寄せたりしないでね」と、もう一つ願いが叶う指輪を渡しました。
故郷に帰ると、お父さんはまた貧乏になっていました。息子はつい、お姫様の言葉を忘れ、「お姫様、金の山のお城よ、ここへ来たれ!」と願ってしまいました。
すると、目の前にお姫様とお城が現れましたが、お姫様は悲しそうでした。「あなたは約束を破ったわ…」
お姫様は息子に、一歩で七里も進める魔法の靴と、かぶると姿が見えなくなるマントをくれました。「これで私を探しに来て。でも、もう指輪の力は使えないわ」そう言うと、お姫様もお城も消えてしまいました。
息子は魔法の靴とマントで、お姫様を探す旅に出ました。
森の奥で、三人の巨人が一本の剣を巡って大喧嘩していました。「この剣は、『全ての首よ、切れ!』と命じれば、その通りになる魔法の剣なんだ!」「いや、おれのもんだ!」
息子はマントで姿を消し、巨人のそばへ行くと、「そんなに欲しいなら、競争したらどうだい? あの山のてっぺんまで競争して、一番だったものが剣をもらうんだ」と提案しました。
「ようい、ドン!」の合図で巨人が走り出すと、息子は魔法の靴でびゅーんと先回りし、剣を手に取りました。そしてマントで姿を隠し、こっそり言いました。「巨人の首以外、全部切れ!」…なんてことは言いませんでした。彼は優しいので、ただ剣を持ってその場を去りました。
長い旅の末、息子はついに金の山を見つけました。お城では、お姫様が別の誰かと結婚させられそうになっていました。
息子はマントで姿を消し、宴会の席でお姫様の隣にそっと座りました。お姫様のお皿からこっそりパンを取って食べたり、ワインを飲んだり。お姫様は「あら?食べ物がないわ…誰かしら?」と気づきました。
息子がマントを脱ぐと、お姫様はびっくり!「あなた!」
そこにいた悪い家来たちが息子を捕まえようとしましたが、息子は剣を抜き、「この城から、僕とお姫様を邪魔する悪いやつらは、みんないなくなれ!」と叫びました。すると、悪い家来たちは蜘蛛の子を散らすように逃げていきました。
こうして、息子は再びお姫様と結ばれ、今度こそ本当に金の山の王様になったのです。そして、二人でいつまでも幸せに暮らしましたとさ。
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