三枚の羽
グリム童話
むかしむかし、というほど昔でもないかもしれませんが、あるところに、年をとった王様がいました。王様には三人の息子がいましたが、上の二人はとても賢くてしっかり者。でも、三番目の末っ子の王子は、少しのんびり屋さんで、みんなからは「ぼんやりハンス」なんて呼ばれていました。
王様もだんだん年を取り、誰に国を継がせるか悩んでいました。そこで、ある日、三人の王子を呼び集めて言いました。
「三本の羽を空に飛ばそう。それぞれの羽が落ちた方へ行き、わしが満足するほど素晴らしいものを持ってきた者に、この国を譲ろう。」
王様が三本の羽をふっと吹くと、一本は東へ、もう一本は西へと飛んでいきました。賢いお兄さんたちは、「よしきた!」とばかりに、それぞれの羽を追いかけて元気よく出発しました。
ところが、ハンスの羽は、ひらひらと飛んだかと思うと、すぐ近くの地面にぽとりと落ちてしまいました。
「あーあ、やっぱりぼくはだめだなあ」
ハンスががっかりしていると、羽が落ちたそばに、地面に続く小さな扉があるのを見つけました。
「なんだろう?」
ハンスがその扉を開けて階段を降りていくと、そこには大きな洞穴があって、真ん中にでっぷりとしたヒキガエルが座っていました。周りには小さなカエルたちがたくさんいます。
ハンスが「こんにちは。実は、一番きれいなじゅうたんを探しているんです」と話しかけると、大きなヒキガエルは言いました。
「ゲコゲコちゃん、ゲコゲコちゃん、足の悪いちびちゃん、大きな箱を持ってきておくれ!」
すると、小さなカエルが一匹、大きな箱をよいしょよいしょと運んできました。ヒキガエルがその箱を開けると、中には今まで見たこともないほど美しくて、ふわふわのじゅうたんが入っていました。
ハンスは大喜びでそれを持って王様のところへ帰りました。
その頃、お兄さんたちも帰ってきましたが、持ってきたのはありふれた羊飼いの女から買った、ごわごわした布きれでした。王様はハンスのじゅうたんを見て、びっくり。「これは素晴らしい!」
でも、王様は言いました。「よし、もう一度だけ試そう。今度は、一番美しい指輪を持ってきた者に国を譲ることにする。」
そしてまた三本の羽を飛ばしました。お兄さんたちの羽はまた東と西へ。ハンスの羽は、またしてもヒキガエルのいる洞穴のそばに落ちました。
ハンスが洞穴へ行き、ヒキガエルに「一番美しい指輪が欲しいんです」と言うと、ヒキガエルはまた歌うように言いました。
「ゲコゲコちゃん、ゲコゲコちゃん、足の悪いちびちゃん、今度は宝石箱を持ってきておくれ!」
小さなカエルが持ってきた宝石箱の中には、キラキラと輝く、それはそれは見事な指輪が入っていました。
お兄さんたちは、古い釘を叩いて作ったような指輪しか見つけられませんでした。王様はハンスの指輪を見て、またまた感心しました。
それでも王様は、末っ子のハンスに国を譲るのが少し心配だったのか、こう言いました。
「最後の試練だ。一番美しいお嫁さんを連れてきた者に、今度こそ国を譲ろう。」
三度、羽が飛ばされました。お兄さんたちの羽はやっぱり東と西へ。ハンスの羽は、やっぱりヒキガエルのところへ。
ハンスがヒキガエルに「一番美しいお嫁さんを…」と少し困ったように言うと、ヒキガエルはにっこり(したように見えました)。
「それはお安いご用だよ、ハンス。ほら、これに乗せてあげよう。」
ヒキガエルが指さしたのは、黄色いカブをくりぬいて作った小さな馬車。それを引いているのは、なんと六匹の小さなネズミたちでした。
「ええっ?」ハンスが戸惑っていると、ヒキガエルは一番小さなカエルの一匹をそのカブの馬車に乗せました。すると、どうでしょう!小さなカエルはあっという間に、息をのむほど美しいお姫様に変身したのです。カブの馬車も金色の立派な馬車に、ネズミたちは白馬に変わりました。
ハンスがお姫様を連れてお城に帰ると、お兄さんたちは、最初に見つけた農家の娘さんを連れてきていました。ハンスのお嫁さんの美しさには、誰もかないません。
王様は言いました。「よし、決まった!ハンス、お前が次の王様だ!」
お兄さんたちは不満そうでしたが、王様は最後にこう言いました。
「では、天井から吊るした輪っかを、お嫁さんたちに飛び越えてもらおう。」
お兄さんたちが連れてきた娘さんたちは、不器用で輪っかをうまく飛び越えられませんでしたが、ハンスのお姫様は、まるで小鳥のように軽やかに輪っかを飛び越えました。
こうして、ぼんやりハンスと呼ばれていた末っ子の王子は、国一番の賢くて優しい王様になりました。そして、美しいお姫様といつまでも幸せに暮らしたということです。
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