• 嵐と看板

    アンデルセン童話
    ビュービュー、ゴーゴー!ある晩、町一番の嵐がやってきました。風があまりにも強くて、お店の看板たちが、まるで木の葉っぱみたいに飛ばされそうになっています。

    「うわーっ、助けてくれー!」と叫んだのは、床屋さんのくるくる回る看板です。隣のパン屋さんの、おいしそうなパンの絵が描かれた看板も、ガタガタと震えています。「こりゃたまらん、落ちちゃうよー!」

    とうとう、バリバリッ、バタン!あちこちのお店の看板が、地面にたたきつけられてしまいました。

    地面に落ちた看板たちは、びっくりしたやら、痛いやらで、しばらく黙っていましたが、やがて口々に文句を言い始めました。

    「まったく、なんて風だ!おかげでこんな目に!」と、おしゃれな帽子屋さんの看板が言いました。「わたしがいちばん上等なシルクハットの絵なのに、泥だらけじゃないか!」

    「ふん、あんただけじゃないよ」と、魚屋さんのピチピチ跳ねる魚の看板が言いました。「わたしだって、自慢のうろこが傷ついちゃったよ。わたしがいなければ、みんな新鮮なお魚が食べられないんだぞ!」

    「いやいや、わたしこそがいちばん大切さ!」と、本屋さんの、分厚い本が開かれた形の看板が割り込みました。「知識は力なり!わたしがいなければ、みんな賢くなれないんだからね!」

    「あらあら、みなさん、お忘れかしら?」と、お菓子屋さんの、ケーキやキャンディーがたくさん描かれた看板が甘い声で言いました。「みんなを笑顔にするのは、わたしの役目よ。甘いものは幸せを運ぶの!」

    看板たちは、自分がどれだけ大切で、どれだけ素晴らしいかを、次から次へと言い合います。まるで、誰がいちばんえらいかを競争しているみたいです。

    その様子を、近くの家の窓から、ひとりの男の子が見ていました。男の子は、看板たちの言い争いがおかしくて、くすくす笑ってしまいました。「みんな、自分が一番だって思ってるんだなあ。面白いなあ。」

    やがて嵐は過ぎ去り、朝がやってきました。お店の人たちは、落ちた看板を見つけて、大騒ぎです。
    「おや、うちの看板が!」
    「こっちもだ!」

    ある看板は、きれいに修理されて、またもとの場所に戻されました。ある看板は、もう古くなっていたので、新しいものと取り替えられました。そして、いくつかは、壊れすぎてしまって、薪にされたり、物置の隅にしまわれたりしました。

    男の子は思いました。「どんなに立派な看板だって、いつかは古くなったり、壊れたりするんだなあ。でも、看板がなくても、あのお店のおじさんやおばさんは、毎日一生懸命働いている。それが一番すごいことなのかもしれないな。」

    それからというもの、男の子はピカピカの新しい看板よりも、町の人たちのために頑張っているお店の人たちのことを、もっと好きになったということです。

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