海の果て
アンデルセン童話
あるところに、とっても力持ちで、世界中のものをぜーんぶ自分のものにしたいと思っている王様がいました。
「もっともっと広い土地がほしい!もっともっと宝物がほしい!」
王様は大きな船をたくさん作って、兵隊さんたちと一緒に出かけました。「この国もわしのもの!」「あの島もわしのもの!」と、次々に新しい土地を手に入れていきました。
とうとう、王様は「海のいちばん遠いところ」にやってきました。そこは、もう何も見えない、静かな静かな場所でした。空と海がとけあっているみたいです。
「ここが世界の終わりか。わしは世界の果てまで手に入れたぞ!」王様は得意になりました。
そのときです。ざぶーん、と大きな波が来て、海の中からゆっくりと大きな木の箱がひとつ、浮かび上がってきたのです。それは、人が入るくらいの大きさの、ちょっと怖い感じの箱でした。
「なんだ、あれは?」
王様がドキドキしながら箱のふたを開けてみると、びっくり!中には鏡みたいに、王様が今までしてきた「ちょっぴり意地悪なこと」や「わがままなこと」が、絵になって映っていたのです。
泣いている人の顔、壊されたおうち、無理やり奪った宝物…。
それを見た王様は、顔が真っ青になりました。体もぶるぶる震えだしました。
「ああ、わしはこんなにたくさんの人を悲しませていたのか…」
王様は初めて、自分のしてきたことがどれだけ大変なことだったか気づきました。胸がぎゅーっと痛くなりました。あんなに欲しかった宝物も、広い土地も、今はどうでもよく思えました。
王様はすぐに船を自分の国へ向かわせました。もう新しい土地は欲しくありません。
国に帰った王様は、それから一生懸命、みんなに親切にするようになりました。海の果てで見たあの箱のことは、ずっと忘れられませんでした。
そして、時々空を見上げては、「本当に大切なものは何だろう」と考えるようになったのです。
おしまい。
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