むかしむかし、ではなくて、そうねえ、ある春の日のお話にしましょうか。一人の優しい奥さんがいました。奥さんは、かわいい赤ちゃんが欲しくてたまりませんでしたが、なかなか恵まれませんでした。

ある日、魔法使いのおばあさんに出会い、不思議な大麦の粒をもらいました。「これを植えてごらんなさい」おばあさんはにっこり。

奥さんがその粒を植木鉢に植えると、あら不思議！すぐに芽が出て、きれいなチューリップのような花が咲きました。花びらがそっと開くと、中にはなんと、親指くらいの小さな、それはそれは可愛らしい女の子が座っていたのです！

奥さんは大喜びで、その子を「おやゆび姫」と名付けました。おやゆび姫のベッドはくるみの殻、お布団はバラの花びら。お皿に張った水の上で、花びらのボートを浮かべて遊ぶ、楽しい毎日でした。

ところがある晩、ぶきみなヒキガエルが窓から忍び込んできて、眠っているおやゆび姫をさらっていきました。「うちの息子の嫁にちょうどいいわい」ゲコゲコ。ヒキガエルの息子も、お母さんそっくりで、おやゆび姫はびっくりして泣き出しました。

でも、池の魚たちがかわいそうに思い、スイレンの葉の茎をかじって助けてくれました。葉っぱに乗ったおやゆび姫は、白い蝶々が葉っぱを引っ張ってくれて、どんどん流れていきました。

今度は大きなコガネムシに捕まってしまいます。でも、他のコガネムシたちが「足が二本しかないなんて変なの！」と笑うので、コガネムシはおやゆび姫をポイと捨ててしまいました。

一人ぼっちになったおやゆび姫。夏が過ぎ、秋が来て、寒い冬がやってきました。凍えそうになったおやゆび姫を助けてくれたのは、親切な野ネズミのおばあさんでした。暖かいお家と美味しい木の実を分けてくれました。

野ネズミは言いました。「隣に住んでいるモグラさんはお金持ちだよ。お嫁さんになったらどうだい？」でも、モグラさんは暗い土の中が大好きで、お日様や花が大嫌い。おやゆび姫は悲しくなりました。

そんな時、おやゆび姫は土の中で凍えかけているツバメを見つけます。一生懸命看病すると、ツバメは元気になりました。「ありがとう、命の恩人です。春になったら、暖かい南の国へ一緒に行きませんか？」でも、おやゆび姫は野ネズミのおばあさんへの恩返しのため、断りました。

いよいよモグラさんとの結婚式の日。おやゆび姫が悲しんでいると、あのツバメがやってきました。「さあ、僕の背中に乗って！」おやゆび姫はツバメの背中に乗り、太陽の光あふれる暖かい国へと飛んでいきました。

ツバメは、おやゆび姫を美しい白い花の上にそっと降ろしました。すると、花の中から、おやゆび姫とそっくりな大きさの、素敵な花の王子様が現れたのです！王子様はおやゆび姫に優しく微笑みかけました。「僕のお嫁さんになってくれませんか？」

おやゆび姫はにっこり頷きました。こうして、おやゆび姫は花の国の女王様になり、小さな羽をもらって、いつまでも幸せに暮らしましたとさ。

1865 閲覧数