ティーポット
アンデルセン童話
朝ごはんのテーブルのまんなかで、いつもふんぞりかえっているものがいました。ぴかぴかの、それはそれは美しいティーポットです。
「わたしって、なんてすてきなのかしら!」ティーポットは、自分のまるいおなかと、すらっとのびた注ぎ口をながめては、うっとりしていました。「このテーブルでいちばんえらいのは、わたしよ!だって、みんなにおいしい紅茶をいれてあげるんだもの。」
となりのカップたちや、ミルク入れ、お砂糖つぼは、ティーポットのじまん話に、ちょっとあきれ顔。でも、ティーポットは気にしません。
「わたしのこの注ぎ口をごらんなさい。まるで白鳥の首みたいでしょう?そしてこの取っ手!これがあるから、みんなはわたしを優雅にもちあげられるのよ。」
ティーポットは、自分が「お茶会の女王さま」だと信じていました。
ところがある日、たいへんなことがおこりました。お手伝いさんが、あわててティーポットを運んでいるとき、つるっと手をすべらせてしまったのです!ガシャン!
ティーポットは床に落ちて、いちばんじまんだった注ぎ口が、ぽきん、と欠けてしまいました。
「ああっ、わたしのたいせつな注ぎ口が!これじゃあ、もう紅茶をそそげないわ!」ティーポットはショックで、声も出ません。
お手伝いさんは、「あらあら、もう使えないわね」と言って、ティーポットを庭のすみっこにぽいっと捨ててしまいました。
「ひどいわ、ひどいわ!」ティーポットは、くやしくてたまりません。今までみんなにちやほやされていたのに、注ぎ口が欠けたとたん、だれも見向きもしてくれません。雨の日も、風の日も、ティーポットはひとりぼっちでした。
「わたしはもう、だれの役にもたたないのね……」
そんなある日、庭で遊んでいた子どもたちが、ティーポットを見つけました。
「わあ、見て!ティーポットがあるよ!」
「ちょっと欠けてるけど、おままごとに使えそう!」
子どもたちは、ティーポットをきれいに洗って、お花をつんで、ティーポットの中に入れました。そして、お人形たちと一緒にお茶会ごっこを始めたのです。
「まあ、こんな使いみちがあったなんて!」ティーポットはびっくりしました。紅茶はそそげなくても、子どもたちを笑顔にできるなんて。
それから、子どもたちはティーポットに土を入れ、きれいな黄色いお花を植えてくれました。ティーポットは、今度はすてきな植木鉢になったのです。毎日、おひさまの光をあびて、お花と一緒に歌っているような気分でした。
「注ぎ口が欠けたときは、もうおしまいだと思ったけど、こんな幸せがまっていたなんてね。」ティーポットは思いました。「いつか、わたしがこなごなに割れてしまっても、このかけらが、また何かの役にたつかもしれないわ。」
庭のすみっこで、ティーポットは新しい役目を見つけて、静かにほほえんでいました。もう、じまんばかりしていた頃のティーポットではありません。小さくても、だれかの役にたてることの喜びを知った、かしこいティーポットになっていたのです。
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