• 一年の十二の月

    アンデルセン童話
    冬がとっても長くて寒い国に、マロースカという名前の、心優しい女の子が住んでいました。でも、マロースカには意地悪なまま母と、ホレーナという名前のわがままな妹がいました。二人はマロースカにばかり大変な仕事をさせて、自分たちは暖かい部屋でごろごろしていました。

    ある雪の降る寒い日、ホレーナが言いました。「お母さん、わたし、すみれの花が見たいわ。」
    まま母はマロースカを呼びつけて言いました。「マロースカ、森へ行ってすみれを摘んでおいで。さもないと家には入れないよ!」
    マロースカはびっくり。「ええっ?こんな真冬にすみれなんて…」でも、逆らうことはできません。凍えるような寒さの中、マロースカは森へ入っていきました。

    森の奥深く、マロースカは明るい光を見つけました。近づいてみると、大きな焚き火を囲んで十二人の男の人たちが静かに座っていました。それは、一年を表す十二の月たちだったのです。一番上座には、白髪で長いひげを生やした「一月」が座っていました。
    マロースカは勇気を出して尋ねました。「あのう、すみません。ここで少し暖まらせていただけませんか?」
    「一月」は優しく頷きました。「おお、お入り。だが、こんな時期に森で何をしているのかね?」
    マロースカは事情を話しました。「まま母に、すみれを摘んでくるように言われたのです。」
    月たちは顔を見合わせました。「一月」は隣に座る若々しい「三月」に言いました。「三月や、ちょっとだけ君の番を譲ってくれないか。」
    「三月」はにっこりして立ち上がり、杖を地面に突き刺しました。すると、不思議なことに雪がみるみる解け、地面からは緑の草が顔を出し、あっという間に可愛らしいすみれの花がたくさん咲いたのです。
    マロースカは大喜びで花を摘み、月たちにお礼を言って急いで家に帰りました。

    まま母とホレーナは、すみれを見てびっくり仰天。でも、すぐに欲張りな気持ちが湧いてきました。
    数日後、ホレーナがまた言いました。「お母さん、今度は真っ赤ないちごが食べたいわ。」
    まま母はまたマロースカに命令しました。「マロースカ、森へ行っていちごを採っておいで!」
    マロースカはまた森へ行き、十二の月たちに会いました。「一月」は今度は元気な「六月」に頼みました。「六月や、少しだけ頼むよ。」
    「六月」が杖を振ると、あたりは夏のようになり、甘くて美味しそうないちごがたくさん実りました。マロースカは感謝していちごを摘み、持ち帰りました。

    まま母とホレーナは、いちごを夢中で食べましたが、欲は深まるばかり。
    「今度は、甘くて赤いりんごよ!」ホレーナが叫びました。
    まま母はマロースカを森へ追い立てました。マロースカは再び月たちのところへ。今度は「一月」が豊かな実りの「九月」に頼みました。「九月」が杖を振ると、木には真っ赤なりんごがたわわに実りました。マロースカはりんごをたくさんもらって帰りました。

    まま母とホレーナは、りんごを見て考えました。「あの子が行くだけでこんないいものが手に入るなら、私たちが行けばもっとたくさんもらえるに違いないわ!」
    二人は厚着をして、自分たちで森へ出かけていきました。そして、十二の月たちを見つけると、ホレーナが乱暴に言いました。「おい、じいさんたち!さっさと果物をよこせ!すみれも、いちごも、りんごも、全部だ!」
    まま母も横柄に言いました。「そうだよ、早くしないと凍えちまうじゃないか!」
    「一月」は、二人の失礼な態度に静かに眉をひそめました。そして、厳かに杖を高く掲げました。
    「お前たちのような欲張りで失礼な者には、何もやらん。それどころか、この寒さを思い知るがいい!」
    「一月」が杖を振り下ろすと、たちまち空は真っ暗になり、猛烈な吹雪が二人を襲いました。風は唸り、雪は叩きつけ、まま母とホレーナは道に迷い、寒さで凍えてしまいました。いくら待っても二人は帰ってきませんでした。

    一方、マロースカは一人になりましたが、親切な月たちのおかげで、食べ物にも困らず、静かに暮らしました。やがて、マロースカの優しさを知った心ある若者と出会い、結婚して、いつまでも幸せに暮らしましたとさ。

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