亜麻
アンデルセン童話
広い畑のまん中に、一本の亜麻(あま)がすっくと立っていました。
「太陽さん、こんにちは!雨さん、ありがとう!」亜麻は毎日ごきげんでした。青くてきれいな花を咲かせると、「見て見て、私、素敵でしょ?」と、ちょっぴり自慢げでした。いつか自分も、何かすごいものになれるんじゃないかな、と夢見ていたのです。
ある日、ブチッ!と引き抜かれてしまいました。「ええっ、どこへ行くの?」
亜麻はびっくり。水の中にジャブン!とつけられて、「うわあ、冷たい!」
それから、カラカラに乾かされて、今度はパンパン!と叩かれました。「いたたた…でも、なんだか軽くなったみたい?」
何度も何度も、いろんなことをされて、亜麻はくたくた。でも、そのたびに姿が変わっていくのが、少し不思議で、少し楽しみでもありました。
とうとう、亜麻は細い細い糸になりました。「わあ、私、こんなに細くなっちゃった!」
糸になった亜麻は、クルクルと巻かれて、機織り(はたおり)機へ。トントン、カッシャン!と音がして、気がつくと、真っ白でつやつやした、一枚の布になっていました。
「まあ、なんてきれいなんでしょう!」亜麻の布は、自分でもうっとりするほど美しくなりました。
亜麻の布は、まず、お金持ちの家のテーブルクロスになりました。お客さんが来るたびに、「なんて素敵な布でしょう」と褒められました。
それから、赤ちゃんの柔らかいシャツになったり、お姫様の美しいドレスの裏地になったりもしました。船の帆になって、広い海へ冒険に出かけたこともあります。
「いろんなものになれるって、楽しいなあ!」亜麻は思いました。
たくさん活躍した亜麻の布も、だんだん古くなって、あちこち擦り切れてきました。
「もう、おしまいなのかな…」ちょっぴり寂しく思っていると、布は小さく小さく切られて、また水に溶かされて…今度は真っ白な紙になりました。
「あれれ?また姿が変わったぞ。でも、なんだか嬉しいな」
紙になった亜麻は、たくさんの物語や、素敵な絵が描かれるのを見守りました。時には、自分自身の冒険の物語が、その紙の上に書かれることもありました。
そして、とうとう最後の日。紙は暖炉の火にくべられました。
「ああ、あったかいなあ…」パチパチと燃えながら、亜麻は思いました。「いろんなものになれて、本当に楽しかったなあ。ありがとう。」
炎の中で、亜麻は小さな光の粒になって、空へ舞い上がっていくような気がしました。
燃え尽きた灰は、やがて庭にまかれました。
そして春になると、その場所から、なんと新しいお花が顔を出したのです。それは、亜麻が昔咲かせていた、あの青くてきれいな花と、どこか似ているような気がしました。
新しい命は、また太陽の光を浴びて、雨の水を飲んで、元気に育っていくのでした。
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