カタツムリとバラの木
アンデルセン童話
緑がキラキラ輝く、あるお庭でのことです。そこには、のんびり屋のカタツムリさんと、とっても美しいバラの木が住んでいました。
カタツムリさんは、いつも自分の殻を背負って、のろのろと動きます。「ふん、バラの木くん」と、ある日カタツムリさんは言いました。「きみは、ただきれいな花を咲かせるだけじゃないか。ぼくみたいに、何か特別なことができるのかい? ぼくのこのネバネバは特別なんだ。それに、このお家(殻)だって、ぼくだけのものさ。」
バラの木は、優しい声で答えました。「あら、カタツムリさん。私はお日様の光を浴びて、露を吸って、美しい花を咲かせるのが仕事なの。みんなが喜んでくれるわ。」そして、本当にきれいなピンク色のバラを一つ咲かせました。
「ふーん。でも、ぼくは自分の中に世界を持っているんだ。いつでもこの殻の中に引っ込めるからね。外の世界なんて、どうでもいいのさ。」カタツムリさんは、そう言って得意そうに触角を揺らしました。
バラの木は、次々と美しいバラを咲かせました。いい香りが風に乗って、ふわふわと庭中に広がります。小鳥たちも歌い、蝶々も遊びに来て、バラの美しさを褒めました。
カタツムリさんは、そんなバラの木を見て、ますます殻に閉じこもりたくなりました。「世の中は、ぼくには合わないみたいだ。ぼくの素晴らしさを分かってくれない。」
そしてとうとう、カタツムリさんは自分の殻の奥深くに引っ込んで、出てこなくなってしまいました。まるで、世界なんて存在しないかのように、静かに、じっとしていました。
バラの木は、その後も毎年、美しい花を咲かせ続けました。太陽の光をいっぱい浴びて、雨のしずくを喜んで。カタツムリさんは、ずっと殻の中。それぞれが、自分の選んだ生き方をしているのでした。お庭では、バラのいい香りがいつまでも続いていました。
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