蝶
アンデルセン童話
あるところに、それはそれはおしゃれなチョウがいました。いつもピカピカの羽をじまんして、ひらひらと飛んでいました。
「そろそろ、すてきなお嫁さんを見つけなくっちゃ」チョウは思いました。「でも、どのお花さんがいいかなあ。」
まず、かわいらしいヒナギクのところへ行きました。「こんにちは、ヒナギクさん。ぼくのお嫁さんになりませんか?」
ヒナギクはちょっとびっくりして言いました。「まあ、チョウさん。でも、わたしはまだ小さいんですもの。それに、あなたはなんだかおじさんみたい。」
「おじさんだって!」チョウはぷんぷん怒って飛んでいきました。
次に、クロッカスやスノードロップのところへ行きましたが、彼女たちはまだ寒くてふるえていました。「まだ早すぎるわ」と彼女たちは言いました。
アネモネは、なんだかちょっと気むずかしい顔をしていました。「わたしはちょっと気むずかしいのよ」
スミレはとても優しかったけれど、チョウには「ちょっとおとなしすぎるかな」と思えました。
チューリップは背が高くて堂々としていましたが、「うーん、ちょっと派手すぎるかな」とチョウは首をかしげました。
エンドウ豆の花は、家族がたくさんいて、「家庭的すぎるのもなあ」とチョウはためらいました。
スイカズラは甘い香りがしましたが、親戚がたくさんぶらさがっているように見えて、「うーん、大家族はちょっと…」
リンゴの花はきれいでしたが、風が吹いたらすぐに散ってしまいそうでした。「すぐにいなくなっちゃうのは困るなあ。」
ミントの葉っぱにも声をかけましたが、「わたし、お花じゃないのよ」と笑われてしまいました。
そうこうしているうちに、春が過ぎ、夏も終わりに近づいてきました。チョウはまだ一人ぼっちです。
「ああ、どうしよう。すてきなお花さんたちは、みんな結婚してしまったか、しおれてしまったかだ」チョウはため息をつきました。
ある日、チョウは小さなカモミールの花にとまりました。カモミールはヒナギクに少し似ていて、なんだか懐かしい気持ちになりました。
「君は…」と言いかけたその時、男の子が虫取り網を持ってやってきました。あっという間に、チョウは捕まえられてしまいました。
そして、チョウは標本箱の中にピンでとめられてしまいました。隣には、二匹のきれいなチョウがいました。男の子は言いました。「これでチョウの夫婦ができたぞ!」
チョウは思いました。「なんだか変な結婚だけど、まあ、お嫁さんが二人もできたってことかな?」でも、もう飛ぶことはできませんでした。おしまい。
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