死神の名付け親
グリム童話
あるところに、子どもがたくさんいる、それはそれは貧しいお父さんがいました。新しい赤ちゃんが生まれたけれど、もう名付け親になってくれる人が誰もいません。困ったお父さんは、森へ続く道を歩いていきました。
最初に出会ったのは、きらきらと光り輝く神様でした。「もしもし、お困りのようだね。私が名付け親になろう。君の子どもに幸せと豊かさをあげよう。」
でも、お父さんは首を横に振りました。「あなたは、お金持ちにはたくさんあげるけど、貧しい人にはあまりくれないから、いやです。」
次に現れたのは、にやにや笑う悪魔でした。「わしが名付け親になってやろう。おまえの子には、世界の宝物と楽しいことを全部あげよう。」
お父さんはまた首を振りました。「あなたはいつも人をだますから、いやです。」
最後にやってきたのは、骸骨のような姿をした死神でした。「私が名付け親になろう。」
「あなたは誰ですか?」とお父さんが聞くと、「わしは死神だ。わしは、金持ちも貧乏人も、王様も家来も、みんな平等に連れていく。」
お父さんは言いました。「それなら、あなたがいいです。あなたはみんなを同じように扱ってくれるから。」
死神は言いました。「よろしい。おまえの子が大きくなったら、医者にしてやろう。わしがそばにいるとき、特別な草を使えば、どんな病気も治せるようになる。ただし、約束がある。わしが病人の頭の方に立っていたら、その草を使えば助かる。だが、足の方に立っていたら、もうだめだ。わしが連れていく。」
やがて男の子は大きくなり、死神のおかげで有名な医者になりました。死神が言った通り、病人の頭の方に死神がいれば、草を使って治し、足の方にいれば、もう助からないと家族に伝えました。だから、いつも彼の言うことは当たりました。医者はどんどんお金持ちになりました。
ある日、王様が重い病気になりました。医者が呼ばれて行ってみると、死神は王様の足の方に立っていました。「ああ、これはもう助からない」と思いましたが、王様は「もし治してくれたら、国で一番のお金持ちにしてやろう」と言います。
医者は欲が出て、こっそり王様の寝床をくるっと回して、死神が頭の方に来るようにしました。そして草を使い、王様は元気になりました。
死神はカンカンに怒って医者のところにやってきました。「よくもわしをだましたな!一度だけは見逃してやろう。だが、二度とこんなことをするなよ。」
しばらくして、今度は美しいお姫様が病気になりました。医者が呼ばれて行くと、また死神がお姫様の足の方に立っています。お姫様はとても美しく、医者は一目で好きになってしまいました。「なんとか助けたい!」
医者はまた寝床をくるっと回して、死神をだまし、お姫様を助けました。
すると、死神はもっともっと怒って、医者の腕をぐいっと掴みました。「もう許さん!わしについてこい!」
死神は医者を暗い暗い洞窟へ連れて行きました。そこには、数えきれないほどのろうそくが燃えていました。大きな火、小さな火、今にも消えそうな火もありました。
「これは何ですか?」と医者が聞くと、死神は答えました。「これはみんな、人の命の火だ。大きな火は長生きする人、小さな火はもうすぐ消える人だ。」
医者は自分の命の火はどれかと尋ねました。死神は、今にも消えそうにチロチロ燃えている小さなろうそくを指さしました。
「ええっ!そんな!お願いです、死神様!新しいろうそくに火を移してください!まだ死にたくありません!」医者は泣きながら頼みました。
死神は少し考えて言いました。「よし、やってみよう。」
死神は新しいろうそくを持ってきて、小さな火を移そうとしました。でも、わざと不器用なふりをして、手が滑ったように見せかけ、とうとう小さな火はプツンと消えてしまいました。
そして、医者もその場に倒れてしまいました。
欲張って約束を破ると、結局は自分に返ってくるんですね。
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