森の奥の、小さな家に、優しい木こりのおじさんと、その奥さんが住んでいました。二人は、赤ちゃんがほしくてほしくてたまりませんでした。「どんなに小さくてもいいから、私たちのところに赤ちゃんが来てくれたらなあ」と、いつも願っていました。

すると、ある日のこと、本当にかわいい赤ちゃんが生まれたのです！でも、びっくり。その赤ちゃんは、お父さんの親指くらいの大きさしかありませんでした。だから、二人はその子に「親指トム」という名前をつけました。

トムは小さいけれど、とっても賢い子でした。ある日、お父さんが森へ木を切りに行くとき、馬を連れていくのを手伝うと言いました。「どうやって？」お父さんは不思議に思いましたが、トムはぴょんと馬の耳に飛び乗って、小さな声で「右だよ！左だよ！まっすぐ！」と道案内をしたのです。馬はちゃんとトムの言うことを聞いて、お父さんはびっくり仰天！

その様子を、旅の途中の二人の男が見ていました。「まあ、なんて面白い子だ！あの子を私たちに売ってくれませんか？見世物にして大金持ちになれるぞ！」男たちは木こりのおじさんに言いました。おじさんは嫌がりましたが、トムが「大丈夫だよ、お父さん。ちゃんとお家に帰ってくるから」と耳元でささやいたので、しぶしぶ男たちにお金を貰ってトムを渡しました。

男たちはトムを帽子の上に乗せて歩き出しました。でも、賢いトムは逃げ出すチャンスをうかがっていました。しばらく行くと、トムはわざと帽子から転がり落ちて、さっと近くにあったネズミの穴に隠れてしまいました。「ちぇっ、逃げられたか！」男たちは小さなトムを見つけられず、諦めて行ってしまいました。

一人になったトムが歩いていると、今度は悪い相談をしている泥棒たちに出会いました。泥棒たちは、村の牧師さんの家に忍び込んで、お金を盗もうと計画していたのです。「僕、体が小さいから、鍵穴からだって入れるよ。手伝ってあげようか？」トムが言うと、泥棒たちは喜びました。

トムは牧師さんの家に忍び込みましたが、泥棒を手伝うつもりはありませんでした。家の中に入ると、わざと大きな声で「わーい！ここにあるもの、ぜーんぶ欲しいのかい？」と叫びました。その声で、家のお手伝いさんが目を覚ましてしまいました。泥棒たちは慌てて逃げ出し、トムも急いで納屋の干し草の中に隠れました。

ところが、次の朝、お手伝いさんはその干し草を牛にあげてしまったのです！トムは干し草と一緒に牛のお腹の中へ。「うわー、真っ暗だ！助けてー！」トムが叫ぶと、牛のお腹の中から声がするので、みんなびっくり。「この牛、何かに取り憑かれているぞ！」大騒ぎになり、とうとう牛はしめられてしまいました。

トムが入っていた牛のお腹は、残念なことにゴミ捨て場にポイっと捨てられてしまいました。そこへ、お腹を空かせたオオカミがやってきて、そのお腹をペロリと食べてしまったのです。またまた真っ暗なお腹の中に入ってしまったトムですが、今度はいい考えが浮かびました。

「ねえ、オオカミさん。僕の家に行けば、もっともっと美味しいものがたくさんあるよ。案内してあげる」トムはオオカミのお腹の中から話しかけました。食いしん坊のオオカミは「本当かい？よし、行こう！」と喜びました。トムはオオカミを上手にお父さんとお母さんの家まで誘導しました。

「さあ、この煙突から入るんだ。美味しいものが待ってるよ！」トムが言うと、オオカミは煙突から家の中へ。家の中にいたお父さんとお母さんは、煙突から落ちてきたオオカミを見てびっくり！でも、その時、「お父さーん！お母さーん！助けてー！」とトムの声が聞こえました。「トムの声だわ！」二人はすぐに、悪いオオカミをやっつけて、お腹の中からトムを助け出しました。

こうして、親指トムは無事にお父さんとお母さんの元へ帰ることができました。小さいけれど、知恵と勇気でたくさんの冒険を乗り越えたトムを、お父さんもお母さんも、ぎゅーっと抱きしめて、みんなで大喜びしたのでした。

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