• 天国の仕立屋

    グリム童話
    空の上、雲よりもずーっと高いところに、キラキラ輝く天国がありました。そこへ、地上で一生懸命働いた、正直で優しい仕立て屋さんがやってきたのです。

    天国の門をたたくと、聖ペテロさまがにこやかに出迎えてくれました。「ようこそ、正直者の仕立て屋さん。天国へようこそ。」

    仕立て屋さんはびっくり。「まあ、なんて素晴らしいところでしょう!金色の道に、宝石でできたお花畑!」

    聖ペテロさまは言いました。「君には、特別な椅子を用意したよ。この金の椅子に座って、下界の様子を眺めているのが君の仕事だ。」

    仕立て屋さんは大喜び。「はい、喜んで!」

    最初のうちは、仕立て屋さんは楽しく下界を眺めていました。人々が楽しそうにしているのを見るのは、とても嬉しかったのです。

    でも、毎日毎日、ただ座って見ているだけ。だんだん仕立て屋さんは退屈になってきました。「うーん、何か面白いことはないかなあ。」

    ある日、仕立て屋さんが下界をじーっと見ていると、洗濯物を干しているおばあさんを見つけました。おばあさんは、こっそり周りを見回すと、隣の家のきれいな布を一枚、自分の洗濯物のかごに隠してしまいました。

    「あっ!いけないんだ、それは泥棒だよ!」仕立て屋さんは思わず叫びました。そして、だんだん腹が立ってきました。「正直者が天国に来られるのに、あんな不正直なことをするなんて!よし、こらしめてやる!」

    仕立て屋さんは、そばにあった神様の足置き台を持ち上げると、あのおばあさんめがけて投げつけようとしました。

    そのとき、聖ペテロさまがやってきて、優しく仕立て屋さんの手を止めました。「おや、仕立て屋さん、何をしようとしているんだい?」

    「聖ペテロさま!あのおばあさんが、隣の布を盗んだんです!だから、この足置き台で…」

    聖ペテロさまは、静かに首を横に振りました。「仕立て屋さん、気持ちはわかるよ。でもね、神様はそんなふうに、すぐに罰を与えたりはしないんだ。あの人がしたことは良くないけれど、神様はもっと大きな心で、人々がいつか間違いに気づくのを待っているんだよ。」

    そして、こう続けました。「もし神様が、君みたいに誰かが悪いことをするたびに足置き台を投げていたら、天国にはもう家具なんて一つも残っていないだろうね。みんな、何かしら小さな間違いはするものだから。」

    仕立て屋さんは、顔を真っ赤にして恥ずかしそうに言いました。「そ、そうですね…。僕、ちょっと怒りすぎました。」

    聖ペテロさまはにっこり。「わかってくれればいいんだよ。さあ、足置き台は元の場所に戻して、これからも穏やかな心で下界を見守っておくれ。」

    仕立て屋さんは、神様の足置き台をそっと元に戻しました。そして、これからはもっと優しい気持ちで、下界の人々を見守ろうと心に誓ったのでした。天国での仕事は、ただ見ているだけじゃなくて、広い心を学ぶことでもあったんですね。

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