賢いエルザ
グリム童話
あるところに、エルサという名前の女の子がいました。エルサのお父さんとお母さんは、そろそろエルサにおむこさんを見つけてあげたいな、と考えていました。
そこへ、ハンスという若者がやってきました。「エルサさんと結婚したいのですが」とハンスが言うと、お父さんとお母さんは大喜び。「ただし、エルサが本当に賢い娘ならね」とハンスは付け加えました。「もちろんだとも!うちのエルサはとっても賢いよ!」とお父さんは胸を張りました。
みんなで食卓を囲んでいると、お父さんが言いました。「エルサや、地下室からビールを持ってきておくれ。」エルサは、えっへん、と得意そうに地下室へ降りました。
ビールのたるのところへ行くと、ふと上を見上げました。あらまあ!壁には、大きくて危なっかしいつるはしが引っかかっています。それを見たエルサは、突然考え込みました。「もしわたしがハンスと結婚して、赤ちゃんが生まれて、その子が大きくなってビールを取りに来て、このつるはしが落ちてきたら…ああ、大変!かわいそうな赤ちゃん!」
そう思うと、エルサはわんわん泣き出してしまいました。「わたしの未来の赤ちゃんが危ない!」
しばらくして、お手伝いさんが「エルサさん、ビールはまだ?」と降りてきました。エルサが泣きながら訳を話すと、お手伝いさんも「まあ、なんてこと!それは大変!」と一緒に泣き始めました。
次に、畑仕事のお兄さんが「どうしたんだい?」とやってきて、話を聞いて、やっぱり一緒にわんわん。「未来の子どもがかわいそうだ!」
とうとう、お父さんとお母さんまで心配して降りてきました。エルサからつるはしの話を聞くと、「おお、エルサや、なんて賢いんだ!そんな先の心配までするとは!」と言いながら、やっぱりみんなで大泣きです。
「いったい地下で何事が起こっているんだ?」最後にハンスが地下室へやってきました。みんなが泣いている理由を聞くと、ハンスはとても感心したように言いました。「なるほど!エルサは本当に賢いお嬢さんだ。まだ起こってもいない未来のことまで、ちゃんと心配できるなんて!素晴らしい!よし、ぜひエルサと結婚しよう!」
こうして、賢い(?)エルサとハンスは結婚しました。
結婚してしばらく経ったある日、ハンスはエルサに言いました。「エルサ、畑へ行って麦を刈ってきておくれ。お昼ご飯も持っていくといい。」
「はーい!」エルサは元気よく畑へ向かいました。
でも、畑に着くと、まずはお弁当を広げて、おいしく食べました。お腹がいっぱいになると、なんだか眠くなってきて…エルサは畑の真ん中で、すやすやと寝てしまいました。
夕方になってもエルサが帰ってこないので、心配したハンスが畑へ探しに行きました。見ると、エルサが気持ちよさそうに眠っています。ハンスはくすくす笑いながら、いたずらを思いつきました。エルサの服に、小さな鈴をいくつかそっと結びつけたのです。そしてハンスは先に家へ帰りました。
やがて目を覚ましたエルサ。体を動かすと、チリンチリンと可愛い鈴の音がします。「あら?この音はなあに?」エルサは首をかしげました。「これって、わたしが鳴らしてるの?それとも、わたしじゃないのかしら?」エルサはすっかり混乱してしまいました。自分が自分なのか、よく分からなくなってしまったのです。
「確かめなくちゃ!」エルサは家に向かって歩き出しました。チリンチリン。歩くたびに鈴が鳴ります。
家のドアの前まで来ると、エルサはそっとノックして、中の人に尋ねました。「すみませーん、エルサは中にいますか?」
家の中からハンスの声がしました。「ああ、いるとも。エルサは中にいるよ。」
それを聞いたエルサは、びっくりして叫びました。「えっ?エルサが中にいるの?じゃあ、やっぱりこれはわたしじゃないんだわ!」
そう言って、エルサはくるりと背を向けると、どこかへ走っていってしまいました。チリンチリンと鈴の音をさせながら。
それっきり、誰もエルサの姿を見ることはありませんでした。
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