三つの言葉
グリム童話
**バージョン1**
ある国に、とっても可愛いお姫様がいました。お姫様は、キラキラ光る金のまりが大好きで、いつもそれで遊んでいました。ある暑い日、お姫様は森の近くの大きな泉のそばで、金のまりをぽーん、ぽーんと投げて遊んでいました。ところが、うっかり手元がくるって、大事な金のまりは泉の中へぽちゃんと落ちてしまいました。
泉はとても深くて、まりは見えません。「うわーん、私の金のまりが!」お姫様はしくしく泣き始めました。すると、どこからか声がしました。「ゲロゲロ。お姫様、どうしてそんなに悲しそうに泣いているのですか?」見ると、水の中から一匹の大きなカエルが顔を出していました。
「私の大事な金のまりが、泉に落ちてしまったの。」お姫様が言うと、カエルは言いました。「私がそのまりを取ってきてあげましょう。でも、その代わりに、私をお友達にしてくれますか?一緒にご飯を食べたり、あなたの小さなお皿から分けてもらったり、あなたのベッドで隣で寝かせてくれたりしますか?」
お姫様は「まあ、カエルさんだし、お城まで来るわけないわ」と思い、「ええ、いいわよ。約束するわ」と言いました。カエルはすぐに水の中に潜り、ぴかぴかの金のまりを持って戻ってきました。お姫様は大喜びでまりを受け取ると、カエルのことなんてすっかり忘れて、お城へ走って帰ってしまいました。
次の日、お姫様が王様とご飯を食べていると、ドアをトントンと叩く音がしました。そして外から声がします。「お姫様、お姫様、ドアを開けてくださいな。昨日、泉のそばで約束したでしょう?」お姫様は真っ青になりました。王様が事情を聞き、「約束は守らなければいけないよ」と言いました。
仕方なくお姫様はドアを開け、カエルをテーブルに上げました。カエルはお姫様のお皿から一緒にご飯を食べ、お姫様の金のコップから飲みました。お姫様はいやでいやでたまりません。夜になり、カエルは言いました。「眠たくなってきたなあ。お姫様の寝室へ連れて行って、ベッドで一緒に寝かせておくれよ。」
お姫様はカエルを触るのも嫌でしたが、王様の言葉を思い出し、しぶしぶカエルを指でつまんで寝室へ連れて行きました。でも、ベッドに入れるなんてとんでもない!お姫様は怒って、カエルを壁に向かって、えいっ!と投げつけてしまいました。
すると、どうでしょう!カエルが床に落ちると、それは素敵な王子様の姿に変わったのです。王子様はにっこり笑って言いました。「ありがとう、お姫様。私は悪い魔女に魔法をかけられていたのです。あなたが魔法を解いてくれました。」
お姫様はびっくりしましたが、優しい王子様をすぐに好きになりました。やがて、王子様の国から立派な馬車が迎えに来ました。その馬車には、王子様の忠実な家来、ハインリッヒが乗っていました。ハインリッヒは、王子様がカエルにされた悲しみで胸が張り裂けないように、胸に3本の鉄の輪をはめていたのです。王子様が元に戻った喜びで、その鉄の輪が、バキン!バキン!バキン!と大きな音を立てて弾け飛びました。
そして、お姫様は王子様と一緒に馬車に乗り、幸せに王子様の国へ行きました。
**バージョン2**
森のそばの涼しい泉で、お姫様が金のまりを投げて遊んでいました。ぽーん、ぽーん!空高く投げ上げて、キャッチ!とっても楽しい!でも、その時、あっ!大変!つるりと手が滑って、大事な金のまりが深い泉の中に、ぽちゃんと落ちてしまいました。
「あーん、私のまりが!」お姫様はわーんわーんと大声で泣き出してしまいました。すると、水面がぷくぷくっとなって、一匹のカエルがひょっこり顔を出しました。「ゲロゲロ。お姫様、どうしたの?そんなに泣いて。」
「だって、私の大好きな金のまりが泉に落ちちゃったんだもの。」お姫様がしゃくりあげながら言うと、カエルは言いました。「ふむふむ。じゃあ、僕が取ってきてあげるよ。その代わり、僕と仲良しになってくれる?君のお城で一緒にご飯を食べて、君のコップで飲んで、君のベッドで一緒に寝るんだ。いいかい?」
お姫様は(変なカエルさん。お城に来れるわけないわ)と思って、「うん、いいわよ!約束する!」と返事をしました。カエルはすぐに泉に飛び込み、金のまりをくわえて戻ってきました。お姫様はまりをさっと受け取ると、「ありがとう!」と言うのも忘れて、お城へだだだっと走って帰りました。
次の日の夕食の時間。お姫様が王様と食事をしていると、ドアが、トントン、トントン!「お姫様、開けてくださいな。昨日の約束ですよ、ゲロゲロ。」カエルの声です!お姫様はドキッとしました。王様が「何の約束だね?」と尋ね、お姫様が正直に話すと、「一度した約束は、きちんと守らなければならん」と厳しく言いました。
お姫様はむすっとしながらドアを開け、カエルを中に入れました。カエルはぴょんぴょんとテーブルに飛び乗り、お姫様のお皿から食べ物をぱくぱく。お姫様のコップからごくごく。お姫様は気持ち悪くてたまりません。とうとうカエルが言いました。「ああ、眠いなあ。お姫様のふかふかベッドで寝たいなあ。」
お姫様はもう限界!「いやよ!」と思いましたが、王様の手前、仕方なくカエルを寝室へ連れて行きました。でも、冷たいべとべとしたカエルと一緒に寝るなんて絶対無理!お姫様はカッとなって、カエルをつかむと、思いっきり壁にバーン!と投げつけました。
その瞬間、不思議なことが起こりました。カエルは、なんと、きらびやかな服を着た、ハンサムな王子様に変身したのです!王子様は優しく微笑みました。「怖がらせてごめんね。私は呪いをかけられていたんだ。君が怒ってくれたおかげで、魔法が解けた。ありがとう。」
お姫様はびっくり仰天。でも、目の前の素敵な王子様を見て、すぐに仲良くなりました。しばらくして、王子様を迎えに、忠実な家来のハインリッヒが馬車でやってきました。ハインリッヒは、王子様がカエルだった間、悲しみで心臓が壊れないように、鉄の輪で胸を3重に巻いていたのです。王子様が助かった喜びで、その輪が、ガチャン!パリン!バキーン!と音を立てて壊れました。
お姫様は王子様と一緒にその馬車に乗って、王子様の国へと旅立ち、末永く幸せに暮らしました。
**バージョン3**
お城の庭には、大きな古い井戸がありました。お姫様は、よくそのそばで一人で金のまりをついて遊ぶのが好きでした。「今日もいい天気ね。まりで遊びましょ。」お姫様は金のまりを高く投げたり、地面についたりして遊んでいました。ところが、あらら!手が滑って、大事な金のまりがコロコロと転がり、深い井戸の中にすとんと落ちてしまいました。
「どうしよう!私の金のまり…」お姫様は井戸を覗き込みましたが、暗くて何も見えません。悲しくなって、ぽろぽろと涙をこぼしていると、井戸の中から声がしました。「お困りですか、お姫様?」ひょっこり顔を出したのは、一匹の大きなカエルでした。
「ええ、そうなの。一番大事な金のまりを落としてしまって…」お姫様が涙声で言うと、カエルは答えました。「それなら、私がお助けしましょう。でも、お願いがあります。私をあなたのお友達にして、お城で一緒に食卓を囲み、あなたの金のコップから飲ませていただき、そして夜はあなたのベッドで休ませてはいただけませんか?」
お姫様は(カエルさんとお友達?変なの。でも、まりを取り返したいし…カエルさんだから、まあいいか)と考え、「ええ、いいわよ。全部約束するわ」と言いました。カエルは嬉しそうに水に潜り、すぐに金のまりをくわえて上がってきました。お姫様はまりを受け取ると、カエルのことなどすっかり頭から消えて、急いでお城に戻りました。
次の日、お姫様が家族と食事をしていると、ドアをコンコンと叩く音が聞こえました。「お姫様、昨日のカエルでございます。お約束通り、お邪魔いたします。」カエルの声に、お姫様は顔面蒼白。王様が事情を聞き、「約束は守らねばならんぞ。さあ、カエル殿を中へお入れしなさい」と命じました。
お姫様は嫌々ながらカエルをテーブルに乗せました。カエルはお姫様の隣に座り、お姫様のお皿から美味しそうに食べ、お姫様のコップから飲みました。お姫様は食欲もありません。やがてカエルが言いました。「ああ、満腹じゃ。少し眠くなりました。お姫様、あなたの寝室へお連れください。」
お姫様はぶるぶる震えましたが、王様が見ています。仕方なくカエルを寝室へ運びました。でも、カエルを自分の綺麗なベッドに入れるなんて、考えただけでもぞっとします。「もう我慢できない!」お姫様はついに怒りを爆発させ、カエルを力いっぱい壁に投げつけました。
すると、驚いたことに、カエルは床に落ちた途端、背の高い、立派な王子様の姿に変わったのです。王子様は穏やかに言いました。「ありがとう、お姫様。あなたの勇気ある行動が、私にかけられた悪い魔女の呪いを解いてくれたのです。」
お姫様は、最初は驚きましたが、王子様の優しい瞳を見て、心がときめきました。二人はすぐに打ち解けました。やがて、王子様の忠実な家来、鉄のハインリッヒが迎えの馬車と共にやってきました。ハインリッヒは、主人がカエルに変えられた悲しみに耐えるため、心臓の周りに3本の鉄の帯を巻いていたのです。王子様が無事だったことを知った瞬間、その帯が、メリメリッ!バチン!ゴーン!と大きな音を立てて砕け散りました。
こうして、お姫様は王子様と共に輝く馬車に乗り、幸せに満ちた王子様の国へと向かったのでした。
1660 閲覧数