• 無塩の刻画

    中国寓話
    むかしむかし、中国に、斉(せい)という国がありました。その国の王様は、毎日遊んでばかりで、国の大事なことはちょっぴり後回しにしがちでした。

    そんなある日、王様の前に、一人の女性が現れました。彼女の名前は鐘離春(しょうりしゅん)さん。鐘離春さんは、うーん、正直に言うと、あんまり美人ではありませんでした。でも、とっても頭が良くて、勇気のある女性だったのです。

    鐘離春さんは王様に言いました。「王様、私、国のために言いたいことがあります!」
    でも、すぐには何も言わず、不思議なことをし始めました。

    まず、空をじーっと見上げました。
    次に、きゅっと眉をひそめました。
    それから、ひらひらと袖を振って。
    ドン!と自分の太ももを叩きました。
    最後に、口を大きく開けて「あーあ!」と言ったのです。

    王様はびっくり。「そなた、それは一体どういう意味じゃ?」

    鐘離春さんはにっこり(でも、ちょっと真剣な顔で)答えました。
    「王様、私が空を見上げたのは、西のほうから悪い敵がこの国を狙っているかもしれない、ということです。」
    「眉をひそめたのは、国の皆さんが税金で苦しんでいるのに、王様が気づいていないからです。」
    「袖を振ったのは、王様の周りには、王様に甘いことばかり言う人たちがいて、本当に大切な意見が聞こえなくなっているからです。」
    「太ももを叩いたのは、国には賢くて役に立つ人がたくさんいるのに、王様がその人たちをちゃんと見ていないからです。」
    「そして『あーあ!』と言ったのは、このままでは国が本当に危ないですよ、という意味です!」

    王様は鐘離春さんの言葉と、その勇気にとても感心しました。「なんと賢い女性だ!見た目なんかじゃない、心が大切なんだな。」
    王様は深く反省し、鐘離春さんを自分のお妃様にして、国のために一生懸命働くようになりました。

    鐘離春さんの知恵のおかげで、斉の国はどんどん良くなっていったということです。
    めでたし、めでたし。

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