葉公竜を好む
中国寓話
これは、ちょっと昔のお話。葉公(ようこう)さんという人がいました。
葉公さんは、龍がだーいすき!もう、龍のこととなると、目がキラキラ輝いちゃうんです。
お家の壁には、かっこいい龍の絵がいっぱい。柱には、勇ましい龍の彫刻。お皿も、湯飲みも、ぜーんぶ龍の模様。
「わあ、なんて素晴らしいんだ!龍は最高だ!」
葉公さんは毎日、龍の絵や飾りを見ては、うっとりしていました。口を開けば「龍、龍、龍!」と、龍の話ばかり。
その噂は、遠い空の上の本物の龍にまで届きました。
「ほう、そんなに私のことが好きな人間がいるのか。よし、会いに行って驚かせてやろう。きっと喜ぶに違いない!」
本物の龍は、葉公さんのために、わざわざ雲の上から降りてくることにしました。
ある晴れた日、葉公さんがいつものように龍の絵を眺めていると…
ドシーン!ゴゴゴゴ…!
なんだかお家が揺れています。
「おや?地震かな?」
葉公さんが窓の外を見ると、そこには…!
ギラリと光る大きな目、長ーい体、そして立派なツノ!本物の龍が、にっこり(龍なりに)笑って、窓から顔をのぞかせていたのです!龍の頭は部屋の中、尻尾はまだ庭でゆらゆらしています。
「やあ、葉公さん。君が龍好きだって聞いたから、会いに来たよ!」
龍は言いました。
さあ、葉公さんは大喜び…したと思いますか?
ところが、葉公さんは「ひゃあああああ!」と叫んだきり、顔は真っ青。目はまんまる、口はあんぐり。
「ほ、ほ、本物だー!こ、こ、怖いー!」
ガタガタ震えながら、一目散に部屋の隅っこへ逃げて、布団をかぶってしまいました。
龍はびっくり。
「あれ?龍が好きなんじゃなかったの…?」
しょんぼりした龍は、ため息をひとつついて、静かに空へ帰っていきました。
葉公さんが本当に好きだったのは、絵や飾りの中の龍だけだったんですね。本物の龍は、ちょっぴり怖かったみたいです。
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