南轅北轍
中国寓話
むかしむかし…じゃなくて、あるところに、お金持ちだけど、ちょっぴり方向オンチのおじさんがいました。
このおじさん、南の国へ行こうと決めました。南の国は、あたたかくて、美味しいくだものがたくさんある素敵な場所です。
「よし、南の国へ出発だ!」
おじさんは、ピカピカの馬車に、元気いっぱいの馬をつなぎました。旅の準備はばっちりです。おやつも、水筒も、たくさんのお金も持ちました。
「さあ、南の国へ、ゴーゴー!」
馬車はカタコト、カタコト走り出しました。
でも、あれれ?馬車はなぜか、ぐんぐん北へ向かって走り出しました。太陽が背中の方にあります。
道で会った人がびっくりして言いました。
「もしもし、どちらへお出かけですか?」
おじさんは得意そうに答えました。
「わしは南の国へ行くんじゃ!」
「ええっ?でも、そちらは北ですよ!南の国は反対方向です!」
旅の人は親切に教えてくれましたが、おじさんはにっこり。
「大丈夫、大丈夫。わしの馬はとっても速いからね。あっという間に着くさ!」
そして、馬にパシッとムチを打ち、また北へ進んでいきました。
しばらく行くと、また別の人に会いました。
「あのう、どちらまで?もしかして、南の国ですか?」
「そうじゃ、南の国じゃ!」
「でも、それは北ですよ。どんどん南の国から遠ざかっていますよ!」
その人も心配そうに言いましたが、おじさんはまたまた得意顔。
「心配ご無用!旅のお金もたーっぷり持っているし、わしの馬車の運転手は国一番の腕前なんじゃからのう!」
そう言って、おじさんの馬車はますます速く北へ、北へと走っていきました。
立派な馬も、たくさんのお金も、上手な運転手さんもいましたが、行きたい南の国はどんどん、どんどん遠くなっていくばかりでしたとさ。いくら素晴らしいものを持っていても、向かう方向が間違っていたら、目的地には着けないんだね。
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