ツバメとヘビ
イソップ寓話
ある晴れた空の朝、一羽のツバメが、そろそろ赤ちゃんを産むための巣を作る場所を探していました。
「どこがいいかしら? 安全で、静かなところがいいわね。」
キョロキョロ見回すと、立派な建物が目に入りました。それは裁判所(さいばんしょ)でした。
「あそこなら、みんなが正しいことをする場所だから、きっと悪いことは起きないわ! 安心ね。」
ツバメはそう決めて、裁判所の軒下(のきした)に、泥(どろ)や枯れ草をいっしょうけんめい運んで、素敵な巣を作り上げました。
やがて、巣の中にはかわいらしいヒナたちが生まれました。「ピーピー、チーチー!」と元気な声が聞こえてきます。お母さんツバメは毎日、ヒナたちのためにせっせと虫を捕まえては運び、愛情たっぷりにお世話をしました。
ところがある日、お母さんツバメがエサを探しに巣を離れた、ほんの少しの間のことでした。
そろーり、そろーりと、一匹のヘビが壁を伝って巣に近づいてきたのです。ヘビは、まだ小さくて飛ぶこともできないヒナたちを、一羽残らずペロリと食べてしまいました。
エサをいっぱい口にくわえて帰ってきたお母さんツバメは、巣の中が空っぽになっているのを見て、ぼう然としました。ヒナたちの元気な声も聞こえません。
「ああ、そんな…! 私のかわいい赤ちゃんたちがいないわ! ここは一番安全な場所だと思っていたのに、どうしてこんなひどいことが…。」
お母さんツバメは悲しくて悲しくて、その場で泣き崩れてしまいました。
その様子を近くの木の枝から見ていた別のツバメが、ため息をつきながら言いました。
「本当にかわいそうに。みんなが正しく、安全に過ごせるはずの場所で、こんな悲しい目にあうなんてね。世の中には、思いもよらないことが起こるものなのね。」
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