• 薪を背負った老人

    イソップ寓話
    ある日のことです。ひとりの おじいさんが、おもたい、おもたい薪の束を せなかにしょって、とぼとぼと道を歩いていました。「よいしょ、よいしょ」と かけ声をかけますが、足は もつれるし、息は きれるし、もう くたくたです。

    おじいさんは、とうとう がまんできなくなって、薪の束を ドサリと地面におろしました。
    「ああ、しんどい。もう いやだ。こんなに苦しいなら、いっそ、死神さんにでも来てもらって、らくになりたいわい」
    おじいさんが そうつぶやいた、ちょうどその時です。

    「お呼びでしょうか?」
    とつぜん、うしろから 声がしました。おじいさんが びっくりしてふりかえると、そこには、黒いマントをきた、だれかが すうっと立っていました。
    「ひゃあ!あ、あなたは もしや…死神さま?」
    おじいさんは、腰をぬかしそうになりました。

    死神とよばれたその人は、しずかに うなずきました。
    「はい、そうでございます。わたくしを お呼びになったので、まいりました。何か ご用でしょうか?」
    その声は、おだやかでしたが、おじいさんは ガタガタふるえが とまりません。さっきまでの「死にたい」なんて気持ちは、どこかへ すっとんでしまいました。

    おじいさんは、あわてて こう言いました。
    「あ、いえ、その…この薪の束が重たくて、地面に落としてしまいまして。ちょいと、これを背中に乗せるのを手伝っていただきたかっただけで…はい、それだけなんでございます」

    死神さまは、すこし首をかしげましたが、おじいさんの薪の束を ひょいっと持ち上げ、おじいさんの背中に そっと乗せてくれました。
    「これで、よろしいかな?」
    「は、はい!ありがとうございます!どうも、おさわがせいたしました!」
    おじいさんは、ぺこぺこと頭を下げると、大急ぎで その場をたちさり、いそいそと家路をいそぎました。

    それからというもの、おじいさんは「つかれた」とは言っても、「死にたい」なんてことは、二度と口にしなかったそうですよ。

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