漁師とマグロ
イソップ寓話
ある晴れた日のことでした。海辺の村に住む漁師のおじさんが、いつものように釣り舟に乗って、沖へ出かけました。「今日は大きな魚がたくさん釣れるといいなあ」と、おじさんは空を見上げながら思いました。
しばらくして、おじさんの釣り竿がぐぐーっと大きくしなりました。「おっ、これは大物だぞ!」おじさんは力いっぱいリールを巻きました。海の中から姿を現したのは、ピカピカ光る小さなマグロの子供でした。
小さなマグロは、釣り上げられてびっくりした様子で、ぴちぴちと跳ねながら言いました。
「漁師さん、漁師さん、お願いです!ぼくはまだこんなに小さいんです。今ぼくを海に返してくれたら、もっともっと大きくなって、たくさんの身をつけて戻ってきます。その時にもう一度釣ってくれたら、もっとお腹いっぱい食べられますよ!」
漁師のおじさんは、小さなマグロをじっと見て、少し考えました。そして、にっこり笑って言いました。
「いやいや、マグロくん。君の言うこともわかるけどね。君が大きくなるのを待っている間に、君が他の誰かに釣られてしまうかもしれないし、僕がもう一度君に出会えるかどうかもわからないじゃないか。それに、たとえ小さくても、今、目の前にいる君は、僕にとって今日の確かなごはんなんだよ。」
そう言って、漁師のおじさんは小さなマグロを魚籠に入れました。
遠くの大きな約束よりも、今手の中にある小さなものでも、確かなものの方が大切だということを、おじさんはよく知っていたのです。
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