• グリム童話
    あるところに、とってもお金持ちの農夫と、そのとなりに住む、ちょっぴり貧しい農夫がいました。

    お金持ちの農夫は欲張りで、いつも自分のことばかり考えていました。ある日、お金持ちの農夫は、貧しい農夫の大事な畑を、ずるい手を使って取り上げてしまいました。貧しい農夫は、畑がなくなって食べるものもなくなり、悲しくてたまりません。「ああ、もう生きていたくないなあ。いっそ、お墓に入ってしまいたいよ。」とつぶやきました。

    それを聞いたお金持ちの農夫は、ニヤニヤ笑って言いました。「そんなに死にたいなら、ちょうどいい。わしが将来入るために作っておいた立派なお墓がある。今夜からそこで寝てみろよ。本当に死ねるかもしれんぞ!」

    貧しい農夫は、もうどうなってもいいと思い、その夜、言われたとおりお金持ちの農夫のお墓へ行きました。お墓はまだ誰も入っていない、空っぽの石の部屋でした。そこに横になると、寒くて寂しくて、ますます悲しくなりました。

    真夜中ごろです。どこからか、低くてこわーい声が聞こえてきました。「おい、おまえは誰だ?わしの墓で何をしている?」
    貧しい農夫はびっくりして、声も出ません。
    声は続けます。「おまえは、生きている間に、貧しい人たちに何か恵んでやったか?」
    貧しい農夫は、お金持ちの農夫のことを思い浮かべながら、正直に答えました。「いいえ、なにも…。」
    「そうか。では、使用人たちに優しくしてやったか?」
    「いいえ、それも…。」
    「ふん、欲張りめ!」そういうと、見えない何かに、貧しい農夫は力いっぱい叩きのめされてしまいました。朝になると、体中が痛くて、やっとのことで家へ帰りました。

    次の日の夜も、貧しい農夫は仕方なくお墓へ行きました。するとまた、あのこわい声が聞こえてきて、同じように質問をします。そしてまた、貧しい農夫は叩きのめされました。

    三日目の夜。貧しい農夫はもうフラフラで、お墓へ行く元気もありませんでした。
    一方、お金持ちの農夫は、「あの貧乏人、本当に毎晩わしの墓で寝ているのか?ちょっと様子を見てやろう」と、こっそり自分のお墓へ行ってみました。そして、お墓の中にそっと入って横になりました。

    すると、真夜中にあのこわい声が響きました。「また来たな!今度こそ許さんぞ!貧しい人に恵んでやったか?」
    お金持ちの農夫は、自分のことだと気づかず、いつものように強気で答えました。「わしが誰に恵むもんか!」
    「そうか!では使用人には優しくしたか?」
    「わしが使用人に優しくするわけないだろう!」
    「この大うそつきめ!昨日までは正直に答えていたのに!」
    こわい声の主は、今度はお金持ちの農夫を、前よりももっともっと激しく叩きのめしました。お金持ちの農夫は「わ、わしは本人だ!昨日までのやつとは違う!」と叫びましたが、声の主は聞きません。とうとう、お金持ちの農夫は、自分の作ったお墓で、本当に動かなくなってしまいました。

    次の朝、貧しい農夫がおそるおそるお墓をのぞいてみると、お金持ちの農夫が倒れていました。
    それからというもの、貧しい農夫は、なぜかお金持ちの農夫の畑や財産を全部もらうことになり、村一番の働き者として、みんなに親切にしながら幸せに暮らしたということです。やっぱり、欲張りはいけませんね。

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