太鼓たたき
グリム童話
あるところに、ひとりの若い太鼓たたきがいました。戦争が終わって、お城での仕事もなくなってしまいました。もらったお金はほんの少しだけ。「これからどうしようかなあ」と若者は思いましたが、くよくよしてはいません。トントコトントコ、陽気に太鼓をたたきながら、新しい冒険を探しに旅に出ました。
しばらく歩くと、大きな湖のほとりに着きました。岸辺には、真っ白でとてもきれいな布きれが落ちています。「わあ、なんてすてきな布だろう。これでシャツができたらいいのになあ」と若者がつぶやくと、あら不思議!布きれは、たちまち素晴らしいシャツに変わったのです。
若者はびっくり。「もしかして、これは願いがかなう魔法のシャツなのかな?」試しに、「立派なお城と、おいしいごちそうがほしい!」と願ってみました。すると、目の前に大きなお城が現れ、テーブルには山もりのごちそうが並んでいます!
「すごいぞ!」若者は大喜び。「次は…そうだ、美しいお姫様に会いたいなあ!」そう願うと、本当にお姫様がお城にやってきました。でも、お姫様はなぜかとても悲しそうな顔をしています。
そこへ、ひとりのおばあさんがやってきて言いました。「お姫様は、悪い魔法使いに呪いをかけられているのさ。遠い遠いガラスの山に閉じ込められていて、ここに来たのはお姫様の魂だけ。助けたければ、ガラスの山へ行くしかないね。」
おばあさんは、実はその悪い魔法使いでした。若者がお姫様のことで頭がいっぱいになっているすきに、魔法使いはお姫様の魂と魔法のシャツを奪い、どこかへ消え去ってしまいました。立派だったお城も、ごちそうも、あっという間に消えてしまいました。
若者はがっかりしましたが、お姫様を助けるために、ガラスの山へ向かう決心をしました。
森の中をどんどん進んでいくと、三人の大男が何やらもめています。
「この空飛ぶマントはわしのものだ!」
「いやいや、どんな扉でも開けられるこの魔法の杖こそわしのだ!」
「何を言うか!一歩で千里も行けるこの空飛ぶ靴が一番じゃ!」
三人は宝物を前に、大声で言い争っているのです。
若者はにっこりして言いました。「そんなに欲しいなら、競争したらどうです?あの遠くに見える大きな木まで走って、一番になった人が全部もらうというのは?」
大男たちは「それはいい考えだ!」と、よーいどんで走り出しました。あっという間に見えなくなるほど遠くへ。そのすきに、若者はマントと杖と靴をひょいと手に入れました。
「ありがとう、大男さんたち!」若者は空飛ぶマントを羽織り、空高く舞い上がりました。ガラスの山はすぐに見つかりました。山のふもとには固く閉ざされた扉がありましたが、魔法の杖で軽く触れると、ギギギ…と音をたてて開きました。そして空飛ぶ靴を履いて、滑りやすいガラスの山をあっという間に登りきりました。
山の頂上には、魔法使いとお姫様がいました。若者は姿が見えなくなるマントを使い、そっと魔法使いに近づきました。そして、魔法の杖で魔法使いをポンとたたくと、魔法使いは「キャー!」と叫んで、小さな煙になって消えてしまいました。
お姫様は若者を見て、にっこり。「ありがとう、勇敢な太鼓たたきさん!あなたのおかげで自由になれましたわ。」
若者とお姫様は、空飛ぶ靴を履いて、あっという間に元の国へ帰りました。
その後、若者とお姫様は結婚して、いつまでもお城で幸せに暮らしました。若者は時々、お姫様のために、そして国中の人々のために、楽しく太鼓をトントコトントコとたたいて聞かせたということです。
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