名人泥棒
グリム童話
太陽がキラキラ輝く、とある国でのことです。あるところに、それはそれは頭の回転が速くて、手先が器用な若者がいました。大きくなって、彼は言いました。「お父さん、お母さん、僕は世界一の泥棒の名人になりたいんだ!」
両親はびっくり仰天。「まあ、なんてことを言うんだい!泥棒なんて、とんでもない!」
でも若者の決心は固く、とうとう名付け親でもあるお金持ちの伯爵(はくしゃく)のところへ行って、自分の腕試しをしてもらうことにしました。
伯爵は若者の話を聞いて、ニヤリと笑いました。「ほう、面白い。では、三つの難しい課題を出そう。もし全部できたら、お前を名人と認めてやろう。だが、失敗したら…わかっているな?」
最初の課題は、「わしの厩(うまや)から、一番大事にしている馬を盗んでみせよ。ただし、見張りが二人、馬のそばで寝ずの番をしているぞ。」
その夜、若者はよぼよぼのおばあさんに変装し、おいしいぶどう酒の入った壺を二つ持って厩へ行きました。見張りの男たちは、最初はいぶかしんでいましたが、おばあさんが「寒い夜だから、一杯どうだい?体が温まるよ」とすすめると、ついごくり。そのぶどう酒には、ぐっすり眠れる薬が入っていたのです。あっという間に二人は大いびき。若者は馬のしっぽに古い牛のしっぽを結びつけ、馬のひづめには柔らかい布を巻いて、音を立てずに馬を連れ出し、代わりにのろまな牛を厩につないでおきました。
朝、伯爵が厩を見ると、愛馬の代わりに牛がいてびっくり。「うーむ、やるな!」
二つ目の課題は、「今夜、わしと妻が寝ているベッドからシーツを盗み、さらに妻の指から指輪を盗んでみせよ。」
その夜、伯爵と奥さんは用心して、部屋の戸にしっかり鍵をかけました。真夜中、若者は長い梯子(はしご)を持ってきて、寝室の窓にそっとかけました。そして、あらかじめ用意しておいた、まるで本物の人間そっくりのわら人形を梯子に登らせ始めたのです。伯爵は物音に気づき、窓の外を見て「泥棒だ!」と叫び、ピストルでわら人形を撃ちました。人形はドサッと下に落ちました。
伯爵は「やったぞ!」と安心してベッドに戻りました。すると、暗闇から声がします。「伯爵さま、泥棒はまだここにいますよ。さあ、奥様の指輪を渡してください。シーツもいただきます。」実は、若者は伯爵が人形を撃っている隙に、こっそり部屋に忍び込んでいたのです。真っ暗で何も見えない中、伯爵も奥さんもすっかり怖くなり、言われるがままに指輪を渡し、若者はシーツもするりと引き抜いて、まんまと逃げ出しました。
朝、伯爵はまたしても「くそー、やられた!」と頭を抱えました。
三つ目の最後の課題は、「教会から牧師さんと、教会の鐘つきを盗んでみせよ。」これは一番難しい課題でした。
若者は考えました。そして、白い大きな羽をつけ、キラキラ光る服を着て、まるで天使のような姿に変装しました。夜、牧師さんと鐘つきが教会で話していると、窓からその「天使」が舞い降りました。「私は天からの使いです。あなたがたの信仰が認められ、天国へお連れするように言われました。さあ、この大きな袋に入りなさい。すぐに天国へ飛んでいきますよ。」
牧師さんも鐘つきも、本物の天使だと信じ込み、喜んで袋に入りました。若者は袋の口をしっかり縛ると、よいしょ、よいしょと引きずって、伯爵のお城まで運びました。「伯爵さま、牧師さんと鐘つきさんをお連れしました!」
袋から出された二人は、そこが天国ではなく伯爵の城だと知って、ぽかんとしていました。
伯爵はとうとう大笑い。「まいった、まいった!お前の勝ちだ!お前は確かに泥棒の名人だ。だが、わしの国で悪さをするのは許さんぞ。褒美(ほうび)をやるから、どこか遠くへ行って、その腕を別のことに使うんだな。」
若者はにっこり笑って褒美を受け取ると、「はい、伯爵さま。もうこの国で盗みはしません。もっと広い世界で、僕の腕を試してみます!」と言いました。
そして、若者は新しい冒険を求めて、またどこかへ旅立っていきましたとさ。
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