• お墓の中の貧しい子供

    グリム童話
    むかしむかしと言うほど昔じゃないかもしれない、あるところに、お父さんもお母さんもいない、ひとりぼっちの男の子がいました。男の子はとっても貧乏で、食べるものも、あたたかいお布団もありませんでした。

    ある日、男の子は大きなお屋敷の前に立っていました。そのお屋敷には、お金持ちだけれど、ちょっぴり心が冷たいおじいさんが一人で住んでいました。おじいさんには子どもがいなかったので、男の子を見て、ため息をつきながらも家に入れました。
    「うちで働けば、ご飯くらいは食べさせてやろう。ただし、怠けたら承知しないぞ!」
    男の子は一生懸命働きました。朝早くから夜遅くまで、お掃除をしたり、お庭の手入れをしたり。でも、おじいさんは決して褒めてくれません。いつも冷たいパンとスープだけ。男の子は寂しかったけれど、文句も言わずに頑張りました。

    そんなある日、男の子は重い病気にかかってしまいました。もう起き上がることもできません。
    男の子は弱々しい声でおじいさんに言いました。
    「おじいさん、僕はもうすぐ天国へ行きます。天国はきっと素敵なところでしょうね。おじいさんもいつか天国へ来たら、僕が門のところで待っていますからね。」
    おじいさんはフンと鼻を鳴らして言いました。
    「わしが天国へ行けないわけがなかろう。お前なんかに待ってもらわんでも、わしは一番良い席に決まっとるわい!」
    男の子はにっこり笑って、静かに息を引き取りました。

    それから何年も経って、お金持ちのおじいさんも年を取り、とうとう死んでしまいました。
    (よし、わしも天国へ行くぞ。きっと一番乗りだ!)
    おじいさんは自信満々で天国の門をたたきました。すると、門番の天使が出てきて言いました。
    「あなたは誰ですか?ここへ入るには、地上で良いことをたくさんした人でないといけません。」
    おじいさんは胸を張って言いました。
    「わしは金持ちだぞ!貧しい子を一人、養ってやったこともある!」
    天使は首を横に振りました。
    「いいえ、あなたはあの子に冷たくしましたね。あの子の心はずっと寒かった。だから、あなたはここへは入れません。」
    おじいさんはびっくりして、がっかりして、門の前でしょんぼり座り込んでしまいました。

    その時です。
    「待ってください、天使さま!」
    聞き覚えのある声がしました。見ると、あの男の子が天国の中から駆けてくるではありませんか。
    男の子は天使に言いました。
    「このおじいさんは、確かに僕に厳しかったかもしれません。でも、僕にご飯をくれました。雨風をしのげる場所もくれました。僕を見捨てなかったんです。だから、どうかおじいさんを中に入れてあげてください。」
    天使は男の子の優しい心に感心しました。そして、おじいさんを見ました。おじいさんは、男の子の言葉を聞いて、ぽろぽろと涙を流していました。今まで誰にも優しくできなかったことを、心から後悔しているようでした。

    天使はにっこり笑って言いました。
    「わかりました。あなたの優しい心が、このおじいさんを救ったのですね。では、お入りなさい。ただし、一番良い席ではありませんよ。男の子のそばで、静かに過ごしなさい。」
    おじいさんは何度も何度も男の子と天使にお礼を言いました。
    そして、天国のはじっこの方で、男の子のそばで静かに暮らしました。おじいさんは、そこで初めて、本当の優しさとは何か、温かい心とは何かを知ったということです。

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