• 鵜とヤツガシラ

    グリム童話
    あるところに、海の鳥たちの王様だと威張っている鵜(う)がいました。鵜はいつも一番高い岩の上から、他の鳥たちを見下ろしていました。

    ある日、頭に素敵な冠(かんむり)をつけたヤツガシラが、その岩の近くをひょこひょこ歩いていました。ヤツガシラは虫を探していたのです。

    それを見つけた鵜は、大きな声で言いました。
    「おい、そこの冠をかぶった小さいやつ!ここは俺様の場所だぞ。さっさとどこかへ行け!」

    ヤツガシラはびっくりしましたが、負けてはいません。
    「あら、鵜さん。ここはあなたのだけの場所じゃないでしょう?それに、小さいからって馬鹿にしないでちょうだい。私だって、空を飛ぶのは得意よ。」

    鵜はフンと鼻を鳴らしました。
    「得意だと?お前みたいなちょこまかしたやつが、この海の王様にかなうものか。魚を一匹捕まえるのだって、俺様の方がずっと上手いさ。」

    ヤツガシラは少し考えて、にっこり笑いました。
    「それなら、競争しましょうよ。どっちが本当にすごいか、戦いで決めましょう!」

    鵜はそれを聞いて大笑い。
    「面白い!いいだろう、受けて立つぞ!お前みたいな小さい鳥に、本当の強さを見せてやる!」

    こうして、鵜とヤツガシラの戦いが始まることになりました。

    鵜は、カモメやアジサシ、ペリカンなど、海の仲間たちをたくさん呼び集めました。「ヤツガシラなんて、一羽で十分だ!」と仲間たちは言いましたが、鵜は「いや、徹底的に叩きのめしてやるのだ」と息巻いています。

    一方、ヤツガシラは森の小さな鳥たちや、虫たちに声をかけました。ハチやアブ、チョウチョまで集まってきました。そして、ヤツガシラには秘密の作戦があったのです。ヤツガシラの巣には、お腹を空かせたヒナたちがピーピー鳴いていました。ヤツガシラはヒナたちに言いました。
    「いいこと、みんな。私が特別な合図をしたら、ありったけの大きな声で鳴くのよ!」

    いよいよ戦いの日。広い浜辺で、鵜の軍団とヤツガシラの軍団が向かい合いました。鵜の軍団は数が多く、強そうです。ヤツガシラの軍団は小さくて、なんだか頼りなさそうに見えました。

    鵜が「かかれー!」と叫ぼうとした、その時です。
    ヤツガシラが空に向かって、高く鋭い声で「今よー!」と合図を送りました。

    すると、近くの茂みの中から、ものすごい音が聞こえてきました。
    「ピギャー!ピギャー!ジージー!ギャー!」
    それは、ヤツガシラのヒナたちが、お母さんの合図で一斉に鳴き出した声だったのです。でも、その声は茂みの中で響き渡り、まるで恐ろしい怪物が何十匹も隠れているかのように聞こえました。

    鵜の軍団はびっくり仰天!
    「な、なんだ今の声は!?」
    「きっと、見たこともない大きな化け物がいるんだ!」
    「逃げろー!」

    海の鳥たちは、その恐ろしい声に怯えて、大パニック。その隙に、ヤツガシラが合図すると、ハチやアブがブンブンと鵜の軍団に襲いかかりました。目や鼻をチクチク刺されて、鵜の仲間たちはもう戦うどころではありません。

    「うわー!助けてくれー!」
    鵜も、まさかこんなことになるとは思わず、ほうほうの体で逃げ出しました。

    戦いが終わると、ヤツガシラは得意そうに冠を揺らしました。
    逃げ帰った鵜は、ヤツガシラに言いました。
    「ま、参った…。君の勝ちだ。小さいからって、甘く見てはいけないということがよく分かったよ。」

    それからというもの、鵜はヤツガシラや他の小さな鳥たちを馬鹿にすることはなくなり、みんな仲良く暮らしたということです。そしてヤツガシラは、賢くて勇気のある鳥として、みんなに尊敬されるようになりました。

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