フクロウ
グリム童話
とある静かな村のはずれに、ぽつんと一軒、古い納屋がありました。
ある日のこと、一羽のフクロウが、夜の間にこの納屋に迷い込んで、梁の上にちょこんととまりました。フクロウは昼間は眠っているので、静かに目を閉じています。
朝早く、納屋に仕事に来た村人が、暗がりの中に大きな目玉が二つギラリと光るのを見つけました。「うわぁ!なんだありゃあ!」村人は腰を抜かさんばかりに驚いて、村へ逃げ帰りました。
「た、大変だ!納屋に化け物がいるぞー!大きな目玉で、こっちを睨んでるんだ!」
その話はあっという間に村中に広まりました。
「ええっ、化け物だって?」
「きっと恐ろしい怪物に違いない!」
村人たちは怖がって、誰も納屋に近づこうとしません。
そのうち、一人の男が言いました。「よし、わしが見てきてやろう。もし本当に化け物なら、退治してやる!」
男は大きなこん棒を手に、恐る恐る納屋の戸を少しだけ開けて、中を覗きました。
薄暗い中に、フクロウが相変わらず梁の上にとまっています。フクロウは物音に気づいてパチッと目を開け、男の方を見ました。そして、「ホーウ、ホーウ」と低い声で鳴きました。
男はフクロウの大きな目と、聞いたこともない鳴き声に、心臓が飛び出るほどびっくり!
「ひいぃぃ!やっぱり化け物だ!角があって、火を噴くような目で睨んでるぞ!」
男は慌てて戸を閉め、顔面蒼白で逃げ帰ってきました。
村人たちはますます怖くなりました。「どうしよう、あの化け物を追い出さないと!」
そこで、村で一番力持ちで、ちょっぴり勇敢(ゆうかん)な若者が、「よし、おれが退治してやる!」と、手に大きなフォークのような農具を持って納屋へ向かいました。他の村人たちも、遠巻きに心配そうに見守っています。
若者がそろーりそろーりと納屋に入ると、フクロウは大きな目で若者を見つめ、「ホーウ、ホーウ」とまた鳴きました。その声と姿に、若者も内心ドキドキです。
「えいっ!」若者は勇気を振り絞って、持っていた農具を振り回しました。
びっくりしたフクロウは、バサバサと羽ばたいて、開いていた窓から夜の森へ飛んでいってしまいました。
若者は得意満面で村へ戻り、「おーい、化け物は追い払ったぞ!」と叫びました。
村人たちは大喜び。「よかった、よかった!」「さすがだ!」と、みんなで若者を褒めたたえました。
まさかそれが、ただのフクロウだったなんて、誰も気づかなかったのです。
フクロウはきっと、静かな森の木の枝で「やれやれ、人間って騒がしいなあ」と思っていたことでしょうね。
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