喜びも悲しみも共に
グリム童話
むかしむかし、という始まりではないけれど、あるところに、とっても意地悪な継母(ままはは)がいました。継母には自分の娘がいて、その子のことはそれはもう可愛がっていましたが、もう一人の娘、心の優しい女の子のことは、いつもいじめてばかりでした。
ある晩、継母は自分の娘にこう言いました。「ねえ、あしたになったら、あの邪魔な娘の首をちょん切ってしまうからね。そしたらお前があの子のふりをして、お金持ちの王子様と結婚するんだよ。」
壁の向こうで、優しい女の子はそれを聞いてしまいました。ブルブル、怖くてたまりません。
女の子は、大好きな若者、ローランのところへ急いで行きました。「ローラン、助けて!継母がわたしを殺そうとしているの!」
ローランは言いました。「大丈夫、僕に任せて。一緒に逃げよう!」
二人は夜中にこっそりお城を抜け出しました。
朝になって、継母は女の子がいないことに気づき、カンカンに怒って追いかけてきました。
「ローラン、継母が来たわ!」女の子が叫びます。
「よし!」ローランは女の子を小さな池に、自分をその池で気持ちよさそうに泳ぐカモに変身させました。継母はカモと池を見ましたが、まさか二人が変身しているとは思わず、通り過ぎていきました。
ふう、助かった、と思ったのもつかの間、また継母が追いかけてきます!
「ローラン、また来たわ!」
「大丈夫!」今度は、ローランは女の子を美しいバラの咲く茂みに、自分をその中の一番きれいな赤いバラに変えました。継母は美しいバラの茂みを見ましたが、またしても気づかずに通り過ぎました。
でも、意地悪な継母は諦めません。三度目に追いかけてきたとき、ローランは女の子をバイオリンに、自分をそれを楽しそうに弾く音楽家に変身させました。
継母は音楽家を見て言いました。「もしもし、音楽家さん。そのバイオリンで一曲聞かせてはくれないかね?」
でも、音楽家は「いやですよーだ!」と首を振るばかり。継母はとうとう諦めて、怒りながら帰っていきました。
やっと安全な場所に着くと、ローランは言いました。「ここで少し待っていておくれ。僕は結婚式の準備をしてくるからね。」
でも、ローランは町へ行くと、別のお姫様の魔法にかかってしまい、女の子のことをすっかり忘れてしまったのです。
女の子は一人ぼっち。毎日毎日ローランを待ちましたが、ローランは来ません。悲しくて悲しくて、女の子は自分を野原に咲く一輪の忘れな草に変えました。その花は、風が吹くと小さな声で歌うのでした。
「ローラン、ローラン、私を忘れたの?一緒に逃げたのに、どうして?」
ある日、ローランがその野原を通りかかりました。どこからか、悲しくて美しい歌声が聞こえてきます。
「ローラン、ローラン、私を忘れたの?」
その歌を聞いた途端、ローランはすべてのことを思い出しました!
「そうだ!僕の大切な人だ!」
ローランは忘れな草に駆け寄りました。すると、花はみるみるうちに元の優しい女の子の姿に戻りました。
二人はしっかりと抱き合い、今度こそ本当に素敵な結婚式を挙げて、いつまでもいつまでも仲良く、幸せに暮らしましたとさ。
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