これは、とっても美しいけれど、ちょっぴり、いえ、かなりいばりんぼうだったお姫様のお話です。

そのお姫様は、結婚相手を探すために開かれたパーティーで、やってきたいろんな国の王子様たちを、次から次へと笑いものにしました。
「あら、あの人は太っちょのワイン樽さんね！」
「こっちの人は、ひょろひょろの棒みたい！」
そして、ある立派な王様がやってきましたが、その人のあごがほんの少しだけ曲がっているのを見て、お姫様は手を叩いて笑いました。
「まあ、見て！ツグミのくちばしみたいに曲がったあごだわ！ツグミの髭の王様と呼びましょう！」
それからというもの、その王様は「ツグミの髭の王様」と呼ばれるようになってしまいました。

お姫様のお父さんである王様は、娘のわがままな態度にカンカンに怒りました。
「もう我慢ならん！お前は、次にこの城の門を叩いた者に嫁にやるぞ！」
お姫様は「そんなのいや！」と泣きましたが、王様の決心は固いものでした。

数日後、城の門をトントンと叩く音がしました。やってきたのは、みすぼらしい服を着た、笛を吹く旅の音楽家でした。
王様は約束通り、「この者にお姫様を嫁にやる」と言いました。
お姫様は泣いて嫌がりましたが、とうとう音楽家と一緒に城を出ていくことになりました。

二人が歩いていくと、美しい森が見えました。
「ねえ、この素敵な森は誰のもの？」とお姫様が聞くと、音楽家は答えました。
「ツグミの髭の王様のものさ。」
「ああ、私ったら、なんて馬鹿なことをしたんだろう！」お姫様は後悔しました。
次に、広い牧草地が見えました。
「この緑の牧草地は誰のもの？」
「ツグミの髭の王様のものさ。」
大きな町を通りかかると、お姫様はまた聞きました。
「この賑やかな町は誰のもの？」
「それも、ツグミの髭の王様のものだよ。」
お姫様はため息をつきました。「ああ、もし私がツグミの髭の王様と結婚していたら…。」

やがて二人は、小さな小さな、みすぼらしい小屋にたどり着きました。
「ここが僕たちの家だよ」と音楽家は言いました。
お姫様は火をおこすことも、料理をすることもできません。音楽家はため息をつきながら、なんとか食事の支度をしました。
次の日、音楽家はお姫様に言いました。「僕がいない間、かごを編んでおくれ。」
でも、お姫様は手が痛くなって、うまく編めません。
「これじゃだめだ。市場で土鍋や壺を売ってみよう。」
お姫様は市場の隅っこに座って、土鍋を並べました。でも、誰も美しいお姫様から土鍋を買おうとはしません。
そのうち、酔っ払った兵隊が馬に乗ってやってきて、お姫様の土鍋を全部ガシャーンと割ってしまいました。
お姫様は泣きながら家に帰りました。

「もう、お前には何もできないのか」と音楽家は困った顔をしました。「近くのお城で、台所の下働きでも探してみよう。」
お姫様は、お城の台所で一番汚い仕事をすることになりました。毎日、油とすすで汚れ、残り物をもらって家に帰りました。
ある日、そのお城で盛大な結婚式が開かれることになりました。お姫様はこっそり広間の入り口からのぞいていました。きらびやかな服を着たお客さんたち、美味しそうなごちそう。自分の惨めな姿が恥ずかしくて、涙がこぼれました。
すると突然、立派な服を着た王様が広間から出てきて、お姫様の手を取りました。
お姫様はびっくりして逃げようとしましたが、王様は優しく言いました。
「怖がらないで。私は、君が『ツグミの髭の王様』と笑った者だよ。そして、君と一緒に旅をした音楽家も、君の土鍋を割らせた兵隊も、みんな私だったんだ。」
お姫様は顔を真っ赤にして、心から謝りました。「私が悪かったです。どうか許してください。」
王様はにっこり笑いました。「君のいばりんぼうな心を直すために、こうしたんだよ。もう君は、昔の君じゃないね。」

そして、お姫様は美しいドレスに着替え、ツグミの髭の王様と本当の結婚式を挙げました。
もう誰も、お姫様のことをいばりんぼうだなんて言いませんでした。二人はいつまでも幸せに暮らしたということです。

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