乞食ばあさん
グリム童話
ある国の若い王子さまが、お供もつれずに一人で森へ狩りに出かけた日のことです。
日が暮れかかったころ、王子さまは道に迷ってしまいました。「困ったなあ、どっちへ行けばお城に帰れるんだろう?」
すると、木の陰から、腰の曲がった、みすぼらしい服を着たおばあさんが現れました。
おばあさんは王子さまに言いました。「もしもし、何か恵んでくだされませんか?お腹がぺこぺこで、もう何日も食べていないのです。」
王子さまは、狩りの獲物もなくて少しイライラしていたので、ぶっきらぼうに答えました。「何もあげるものはないよ。それに、急いでいるんだ。」
おばあさんは悲しそうな顔をしましたが、すぐにニヤリと笑って言いました。「そうですか。では、あなたは私を背負って森の外まで連れて行ってくれるまで、ここから一歩も出られなくなるでしょう!」
王子さまは「何を言っているんだ!」と馬を走らせようとしましたが、どうしたことでしょう。馬は一歩も動かず、周りの木々がどんどん伸びてきて、あっという間に壁のようになってしまいました。
「うわあ、どうしよう!」王子さまはびっくり。何度試しても、森から出られません。
仕方なく、王子さまはおばあさんのところへ戻りました。「わかったよ、おばあさん。君を背負って森の外まで行こう。」
王子さまがおばあさんを背負うと、あら不思議。おばあさんは羽のように軽かったのです。「あれ?思ったよりずっと軽いぞ!」
おばあさんは王子さまの背中で道案内を始めました。「さあ、まっすぐ。次の角を右だよ。」
しばらく行くと、森の出口近くに小さなあばら家が見えてきました。「あそこまでお願いするよ。」
王子さまがおばあさんを家の中のベッドにそっと降ろすと、突然、家の中がまばゆい光に包まれました。
そして、目の前にいたのは、みすぼらしいおばあさんではなく、それはそれは美しいお姫さまだったのです!
お姫さまはにっこり笑って言いました。「助けてくれてありがとう、王子さま。私は悪い魔法使いに呪いをかけられて、あんな姿にされていたのです。親切な人に背負ってもらわないと、呪いは解けませんでした。」
王子さまは、自分のしたちょっとした不親切を恥ずかしく思いましたが、お姫さまの美しさと優しさにすっかり心を奪われました。
二人はすぐに恋に落ち、結婚して、いつまでもいつまでも幸せに暮らしたということです。そして王子さまは、困っている人にはいつでも親切にするようになったそうですよ。
1175 閲覧数