• 鉄のハンス

    グリム童話
    むかしむかし、ある国のお城の近くに、それはそれは大きな森がありました。でも、その森はちょっとこわい森。「森に入った者は二度と戻ってこない」と噂されていて、王様も困っていました。

    ある日、ひとりの勇敢な狩人が「私が行ってみましょう」と森に入っていきました。狩人が森の奥深く進むと、静かな泉がありました。その泉のそばで待っていると、水の中から、もじゃもじゃの毛におおわれた、鉄のように強そうな男が現れました。これが「鉄のハンス」です。狩人は鉄のハンスを捕まえ、お城に連れて帰りました。王様は鉄のハンスを頑丈な檻に入れ、中庭に置きました。

    王様には、やんちゃな王子様がいました。ある日、王子様が金のまりで遊んでいると、コロコロと転がって鉄のハンスの檻の中に入ってしまいました。「僕のまりを返して!」と王子様が言うと、鉄のハンスはニヤリと笑って言いました。「お妃様の枕の下にある鍵を持ってくれば、返してやろう。そしてわしをここから出すんだ。」

    王子様は迷いましたが、金のまりが欲しくてたまりません。こっそりお妃様の部屋から鍵を持ってきて、鉄のハンスを檻から出してあげました。鉄のハンスはまりを返すと、「さあ、王子様。わしと一緒においで。ここにいたら、お前はきっと叱られるだろうからな。」と言いました。王子様は怖くなって、鉄のハンスと一緒に森へ逃げ込みました。

    森の奥には、鉄のハンスの秘密の泉がありました。泉の水はキラキラと輝いています。「いいか、この泉には絶対に何も落としてはいけないぞ。特に、お前のその金色の髪の毛が一本でも入ったら大変なことになる。」と鉄のハンスは言いました。王子様は毎日気をつけていましたが、ある日、うっかり泉を覗き込んだ拍子に、髪の毛が一本ハラリと落ちてしまいました。すると、その髪の毛はたちまち本物の金のようにピカピカに輝きだしたのです。

    それを見た鉄のハンスは言いました。「ああ、約束を破ってしまったな。お前はもうここにはいられない。外の世界へ出て、苦労を学ぶがよい。だが、もし本当に困ったことがあったら、森の入り口で『鉄のハンス!』と三回叫ぶのだ。助けに行こう。」

    王子様は森を出て、とある別の国へたどり着きました。お金も何もないので、お城の庭師の仕事を手伝うことになりました。金色の髪を見られないように、いつも古い帽子をかぶっていました。

    ある日、お城のお姫様が庭を散歩していると、風が吹いて王子様の帽子がポロリ。キラキラ輝く金色の髪があらわになりました。お姫様はびっくり。「なんてきれいな髪なの!」と、王子様に興味を持ちました。

    しばらくして、その国が戦争になりそうになりました。王子様は国のために戦いたいと思いましたが、馬も鎧もありません。そこで、森の入り口へ行き、大きな声で叫びました。「鉄のハンス!鉄のハンス!鉄のハンス!」

    すると、森の奥から鉄のハンスが、立派な馬とピカピカの鎧、鋭い剣を持って現れました。「これを使え!」王子様はそれに乗って戦場へ行き、大活躍。でも、戦いが終わると、誰にも気づかれないうちに姿を消しました。そんなことが三度もあり、人々は「あの謎の騎士は誰だろう?」と噂しました。

    三度目の戦いの後、王様は「あの勇敢な騎士を見つけ出した者には、お姫様と結婚させよう」と言いました。お姫様は、戦いが終わって去ろうとする謎の騎士に向かって、金のりんごを投げました。王子様は見事にそれを受け取り、また姿を消しました。

    お城では宴会が開かれ、騎士を探すことになりました。庭師の少年として働く王子様も呼ばれました。お姫様が「あの金のりんごを持っている方はいませんか?」と尋ねると、王子様がそっと金のりんごを取り出しました。みんなびっくり!あの貧しい庭師の少年が、実は勇敢な騎士だったのです。

    王子様はお姫様と結婚することになりました。結婚式の当日、立派な身なりをした王様が会場に現れました。それは、なんと鉄のハンスでした。「王子様、ありがとう。実はわしは魔法で姿を変えられていた王だったのだ。お前の勇気と優しさのおかげで、魔法が解けたのだよ。」

    王子様とお姫様、そして鉄のハンスは、いつまでも幸せに暮らしましたとさ。

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