忠実なフェルディナントと不実なフェルディナント
グリム童話
むかしむかし、というにはちょっと近い昔のことかもしれません。あるところに、男の子が生まれました。名前はフェルディナンド。でも、お父さんもお母さんもとっても貧乏で、フェルディナンドの成長を祝ってくれる名付け親を見つけることができませんでした。
困っていると、立派な馬車に乗った王様が通りかかりました。「私が名付け親になろう」と王様は言い、フェルディナンドと名付け、お祝いに金の鍵を一つくれました。「この鍵は、大きくなったら城の宝物庫を開けるのに使うが良い。ただし、たった一つだけ、絶対に開けてはいけない扉があることを忘れるな。」
フェルディナンドはすくすく育ち、約束の年になりました。王様はフェルディナンドを呼び、「さあ、あの鍵を使う時だ。だが、最後の部屋の扉だけは開けてはならんぞ」と念を押しました。フェルディナンドはわくわくしながら宝物庫へ行き、金の鍵で次々と扉を開けました。金銀財宝、きらびやかな服、珍しい道具。そしてとうとう、最後の扉の前に立ちました。「開けちゃダメって言われたけど…ちょっとだけなら…」
フェルディナンドがそろーっと扉を開けると、そこには息をのむほど美しいお姫様が座っていました。お姫様はフェルディナンドを見て、びっくりして叫び声をあげました。その声を聞いて、王様が飛んできました。「こらー!約束を破ったな!罰として、そのお姫様を自分の力でここへ連れてくるのだ!」王様はカンカンです。
フェルディナンドはしょんぼりして旅に出ました。「どうしよう…」と途方に暮れていると、一頭の不思議な白い馬が現れました。「フェルディナンド、心配いらないよ。僕の言う通りにすれば、お姫様を連れてこられるさ。」
まず、馬は言いました。「お姫様を乗せるには、空飛ぶ怪鳥グリフォンの羽ペンがいる。グリフォンの山へ行こう。」山に着くと、馬はフェルディナンドに言いました。「僕がグリフォンと戦っているふりをするから、そのすきに巣から羽ペンを一本取っておいで。」作戦は成功!
次に馬は言いました。「お姫様には、美しい結婚式のドレスが必要だ。それは恐ろしい竜が守っている。」竜の谷へ行くと、馬はまた作戦を立てました。「僕が竜の気を引くから、その間に宝箱からドレスを盗むんだ。」これも大成功!
とうとうお姫様のいるお城へ。馬は風のように走り、あっという間にお姫様を背中に乗せて、王様の城へと向かいました。
帰り道、お姫様がうとうとと眠ってしまったとき、馬が悲しそうな声で言いました。「フェルディナンド、お願いがあるんだ。僕の首をその剣で切り落としておくれ。」
「ええっ!そんなことできないよ!君は僕の命の恩人なのに!」フェルディナンドは驚きました。
「いいんだ。そうしなければ、君は本当の幸せを手に入れられない。」馬は静かに言いました。
フェルディナンドは泣きながら、馬の言う通りにしました。すると、どうでしょう!白い馬は、なんと立派な王子様の姿に変わったのです!「ありがとう、フェルディナンド。悪い魔法使いに馬にされていたんだ。君のおかげで解けたよ。」
さて、王様の城には、もう一人、ズル賢いフェルディナンドという名前の家来がいました。忠実なフェルディナンドたちが城に近づくと、ズル賢いフェルディナンドは、眠っている忠実なフェルディナンドからお姫様を奪い取り、王様の前に突き出して言いました。「王様!私がお姫様を連れてまいりました!」
王様は喜びましたが、お姫様は言いました。「いいえ、この人ではありません。私を助けてくれたのは、グリフォンの羽ペンと竜のドレスを持ってきた方ですわ。」
ズル賢いフェルディナンドはそんなもの持っていません。そこへ、本物のフェルディナンドが王子様と一緒にやってきました。そして、グリフォンの羽ペンと竜のドレスを見せると、王様は全てを悟りました。
忠実なフェルディナンドは、お姫様と結婚し、助けた王子様とも友達になって、いつまでも幸せに暮らしました。ズル賢いフェルディナンドは…ええと、どこか遠いところへ行っちゃったみたいですよ。おしまい。
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