• 鉄のストーブ

    グリム童話
    深い深い森の中、お日様も迷子になっちゃいそうな場所で、一人のお姫様が途方に暮れていました。「どうしよう、お城への道が全然わからないわ…」しくしく泣いていると、どこからか声がします。

    「もしもし、お困りですか?」
    お姫様がびっくりして周りを見回すと、古びた鉄のストーブが一つ、ぽつんと置いてありました。声はそのストーブから聞こえてくるようです。
    「あなたが話しているの?」
    「はい、そうでございます。もし私をここから連れ出し、お城で私のそばにいてくださるなら、道をお教えしましょう。そして、いつか私と結婚してくださいませんか?」
    お姫様は「ええっ、ストーブと結婚?」と一瞬ためらいましたが、家に帰りたい一心で、「わかったわ、約束する!」と元気よく答えました。

    すると不思議なことに、ストーブはコロコロと転がりだし、お姫様を森の外まで案内してくれました。お城に着くと、お姫様はすっかりストーブとの約束を忘れて、楽しい毎日を過ごしていました。

    ところがある日、お城の庭にあの鉄のストーブがどん、と現れたのです。
    「お姫様、約束を覚えていらっしゃいますか?」
    王様もお妃様もびっくりしましたが、お姫様は正直に事情を話し、約束は守らなければならないと、ストーブのところへ行くことになりました。

    お姫様が悲しい気持ちでストーブのそばに行くと、ストーブは言いました。
    「この壁に小さな穴を開けて、そこから私を覗いてごらんなさい」
    お姫様が言われた通りにすると、なんとストーブの中には、火傷一つない、それはそれは立派な王子様が座っていたのです!王子様は悪い魔法使いに姿を変えられていたのでした。

    お姫様は大喜び。二人はすぐに結婚の準備を始めました。でも、王子様は一つだけお願いをしました。
    「僕が完全に魔法から解放されるまで、三日間だけ、僕の部屋に強い光を当てないでおくれ。特に夜はね」
    お姫様は「ええ、わかったわ」と約束しました。

    最初の二晩はうまくいきました。でも三日目の晩、お姫様はちょっぴり王子様の寝顔が見たくなって、小さなランプを近づけてしまいました。その瞬間、パーンという音と共に、王子様もお城も消えてしまい、お姫様はまた一人ぼっちで森の中に立っていました。

    「なんてことをしてしまったのかしら!」お姫様は後悔し、王子様を探す旅に出ることにしました。
    お腹を空かせたお姫様を助けてくれたのは、池のほとりで出会った大きなカエルさんでした。カエルさんはお礼に、中から美しい太陽のようなドレスが出てくる不思議な木の実をくれました。
    次に助けてくれたのは、森の小さな家に住む優しいおばあさん。おばあさんは、月の光のように輝くドレスが出てくる木の実をくれました。
    そして三番目も、親切なおばあさんで、星のようにキラキラ光るドレスが出てくる木の実をくれました。

    お姫様はついに、王子様が別の意地悪なお姫様に捕らえられているお城を見つけました。そのお姫様は、王子様と結婚しようとしていたのです。
    お姫様は、太陽のドレスを着てお城の前に立ちました。意地悪なお姫様はドレスが欲しくてたまりません。
    「そのドレスをくれるなら、一晩だけ王子様の部屋のそばで過ごさせてあげるわ」
    お姫様はドレスを渡し、王子様の部屋のドアの前で一晩過ごしましたが、王子様は薬で眠らされていて、声は届きません。

    次の日、お姫様は月のドレスを着ました。意地悪なお姫様はまたドレスを欲しがり、同じ約束をします。でも、また王子様は眠ったまま。

    三日目、お姫様は星のドレスを着ました。意地悪なお姫様は、これが最後のチャンスとばかりにドレスをねだります。お姫様は、今度こそ王子様に気づいてもらおうと、王子様に飲ませる飲み物にこっそり目覚めの薬を入れました。
    その夜、お姫様がドアの外から「王子様、私よ!」と呼びかけると、王子様はぱちっと目を覚ましました!
    「君だったのか!ずっと君の声が聞こえていたような気がしたんだ!」

    二人は手を取り合って、意地悪なお姫様の城から逃げ出し、自分たちの国へ帰りました。そして、今度こそ本当に、いつまでもいつまでも幸せに暮らしましたとさ。

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