• 青いランプ

    グリム童話
    むかしむかし、というほど昔でもないかもしれませんが、あるところに一人の兵隊さんがいました。長いこと王様のために一生懸命戦ってきたのに、戦争が終わると、王様は「もう君は用なしだ」と言って、ほんの少しのお金だけ渡して兵隊さんを追い出してしまいました。

    兵隊さんはがっかりして、とぼとぼと道を歩いていました。お腹はぺこぺこ、ポケットのお金もすぐになくなりそうです。「これからどうしようかなあ」と思っていると、いつの間にか暗い森の中に迷い込んでいました。

    そのとき、古びた井戸のそばに、一人のおばあさんが座っているのが見えました。おばあさんは兵隊さんに気づくと、しわくちゃの顔でニヤリと笑い、「もしもし、兵隊さん。ちょっと頼みがあるんだが、聞いてくれないかね?」と言いました。
    「なんだい、おばあさん?」
    「実はね、この井戸の底に、わしの大事なランプを落としてしまったんだ。取ってきてくれたら、お礼をたくさんあげるよ。」

    兵隊さんは、どうせ行くあてもないので、「いいですよ」と答えました。おばあさんは兵隊さんの体に長いロープを結びつけ、井戸の底へそろそろと降ろしてくれました。

    井戸の底は真っ暗でしたが、目が慣れてくると、キラリと青い光が見えました。それは小さなランプで、不思議な青い炎がゆらゆらと燃えていました。
    「これだな!」
    兵隊さんはランプを拾い上げ、おばあさんに「引き上げてくれー!」と叫びました。

    おばあさんは兵隊さんを井戸の上まで引き上げると、「さあ、そのランプをよこしなさい」とせかしました。でも、兵隊さんはランプの青い光がなんだかとても気になって、「いや、これは僕が見つけたものだ。おばあさんには渡さないよ」と言いました。
    おばあさんはカンカンに怒って、「覚えておいで!」と叫ぶと、煙のように消えてしまいました。実はこのおばあさん、魔女だったのです。

    兵隊さんは、まあいいや、とランプを持って歩き出しました。夜になり、火をおこそうとしましたが、火打石がありません。「そうだ、このランプの火を使おう」と、ランプの青い火でタバコに火をつけました。

    すると、どうでしょう!煙の中から、小さな黒い小人がひょっこり現れて、言いました。
    「ご主人様、何なりとご命令を!」
    兵隊さんはびっくりしましたが、試しに「お腹がすいたんだ。何か美味しいものを持ってきておくれ」と頼んでみました。
    小人は「かしこまりました!」と言うと、あっという間に消え、すぐにほかほかのご馳走をたくさん持って戻ってきました。

    兵隊さんは大喜び!「これはすごいランプを手に入れたぞ!」
    それから兵隊さんは、立派な服やたくさんのお金も小人に持ってこさせ、大きな家に住むようになりました。

    ある日、兵隊さんは思いました。「この国で一番美しいお姫様を一度見てみたいなあ」。
    そこで小人を呼び出し、「今夜、お姫様をここに連れてきておくれ」と命じました。
    小人は「おやすいご用です」と言うと、真夜中に眠っているお姫様をそっと抱きかかえ、兵隊さんのところに連れてきました。お姫様は本当に美しく、兵隊さんはうっとりと見とれてしまいました。小人は夜が明ける前にお姫様を城のベッドへ戻しました。

    次の朝、お姫様は王様に「昨夜、なんだか兵隊さんの家にいたような、不思議な夢を見ましたわ」と話しました。
    王様は「それはおかしい」と思い、その夜、お姫様の部屋の前に見張りを立たせました。
    しかし、小人はとてもすばしっこいので、見張りに気づかれず、またお姫様を兵隊さんのところへ連れて行きました。

    王妃様は賢い人でした。「今夜はお姫様の寝間着に小さな穴を開けて、豆を少し入れておきましょう。もし誰かがお姫様を連れ出したら、豆がこぼれて道しるべになるはずですわ。」
    その夜も小人はお姫様を連れ出しましたが、王妃様の思った通り、こぼれた豆が道しるべになりました。

    次の日、王様の家来たちは豆をたどって兵隊さんの家を見つけ、兵隊さんは捕まってしまいました。
    王様はカンカンに怒って、「お前のような悪いやつは死刑だ!」と叫びました。

    兵隊さんは牢屋に入れられ、明日には死刑にされることになりました。
    「ああ、あの青いランプさえあれば…」
    兵隊さんがしょんぼりしていると、牢屋の窓の外を、靴磨きの少年が通りかかりました。
    兵隊さんは少年に声をかけ、「坊や、頼みがあるんだ。僕の家に青いランプがあるから、それを取ってきてくれないか。お礼にこれをあげるよ」と、持っていた最後の一枚の金貨を渡しました。

    少年はすぐにランプを持ってきてくれました。
    兵隊さんは死刑台に連れていかれました。王様も家来たちも、みんな集まっています。
    兵隊さんは王様に言いました。「王様、最後のお願いがあります。どうか、タバコを一本吸わせていただけませんか?」
    王様は「ふん、それくらいなら許してやろう」と言いました。

    兵隊さんは青いランプを取り出し、タバコに火をつけました。
    すると、またあの黒い小人が現れました!
    「ご主人様、何なりとご命令を!」
    兵隊さんはニヤリと笑って言いました。「よし、あの意地悪な王様と家来たちを、こらしめてやれ!」

    小人が手をパチンと鳴らすと、たくさんの仲間たちが現れて、王様や家来たちをボコボコにし始めました。
    「いたた!助けてくれー!」
    王様も家来たちも、もう降参です。

    王様は兵隊さんに謝り、「もうあなたを死刑にはしません。どうかこの国を治めてください」と頼みました。
    こうして、勇気があって賢い兵隊さんは王様になり、美しいお姫様と結婚して、いつまでも幸せに暮らしましたとさ。もちろん、あの不思議な青いランプも大切に持っていましたよ。

    1943 閲覧数