天国のフレイル
グリム童話
空のはるか上、雲よりももっと高いところに、きらきら輝く天国がありました。
そこに、ひとりの貧しい農夫がやってきました。この農夫さん、地上では「わしが一番仕事ができる!」といつも自慢していました。天国の門に着くと、門番をしていた聖ペテロがいました。聖ペテロは、農夫の貧しいけれど働き者そうな姿を見て、「よしよし、入ってもいいよ」と優しく言いました。
農夫が天国の中をきょろきょろ見ながら歩いていると、天使たちが楽しそうに何かを叩いています。それは「からさお」という、麦の穂から麦の粒を取り出すための道具でした。天使たちは、歌いながら、優しくからさおを振っています。
それを見た農夫は、ぷっと吹き出しました。
「おやおや、天使さんたちのやり方は、なんだかゆっくりだなぁ。それに、へっぴり腰じゃないか。わしならもっと上手に、もっとたくさん麦の粒を出せるぞ!」
農夫は大きな声で言いました。
それを聞いた聖ペテロはにっこり。
「ほう、そんなに言うなら、やってごらん。これが天国のからさおだよ。」
聖ペテロは、天使が使っていたからさおを農夫に渡しました。
農夫は「よーし、見てろ!わしの力を見せてやる!」と、からさおを頭の上にぐーっと振り上げ、力いっぱい振り下ろそうとしました。
ところが、天国のからさおは、地上のものとは違って、とっても軽くて、不思議な力を持っていたのです。
農夫が力いっぱい振り下ろそうとした瞬間、なんと、からさおが農夫の体ごと、ぐいーんと空高く持ち上げてしまいました!
「うわー!なんだこりゃー!助けてくれー!」
農夫は空中でじたばた。手足をばたつかせても、からさおは農夫を離さず、どんどん空の上へ。
聖ペテロは下から見上げて言いました。
「おやおや、自慢ばかりしていると、そういうことになるのだよ。天国の仕事は、力まかせにするものではないんだ。少しそこで、どうしたらよかったか考えてごらん。」
それからというもの、その自慢屋の農夫は、天国のからさおと一緒に、空の上でゆらゆら揺れているんだとか。
もし君が夜空を見上げて、何か長いものが星の間で揺れているのを見たら、もしかしたらそれは、あの農夫さんかもしれませんね。
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